北朝鮮→疎開は絶望を意味する

張成沢関連者3000人が農村に追放

2014年1月中旬、北部の両江道に住む取材協力者L氏が「張成沢(チャン・ソンテク)の件で、全国から『疎開民』たち3000人が白岩(ペ グァム)郡に来ることになった」と伝えてきた

【他の写真を見る】 (参考写真)農村追放は人生の絶望を意味する。家壁が崩れかかった農家。2007年10月黄海北道の沙里院(サリウォン)の農村

「疎開民」とは都市部から農村に追放されてきた人達のことを言う

その「疎開民」3000人は、直前の12月に「国家転覆陰謀」のかどで粛清・処刑された張成沢氏に連なる人脈、つまり張氏の親類縁者、平壌や地方に散在する部下や仕事上の関係者などだという

3000人といえば、一つの里(農村における最小の行政単位)を遥かに超える大変な人数である。だが、超大物の張氏に連座した者たちだとすれば驚く数ではない

それよりも、L氏からの報告を聞いて筆者の心が揺さぶられたのは、久しぶりに聞いた「疎開民」という言葉だった。

「疎開民」とは、平壌や都市から主に農村に強制移住、つまり追放させられた人々のことを指す。かなり古くから使われてきた表現であるが、平壌で長い間暮らした筆者をとても重苦しい気持ちにさせる。

その理由を説明するには、まず北朝鮮社会において追放がどのように位置づけられているのかを述べる必要がある。李氏朝鮮時代には「定配」と呼ばれた都市から地方への流刑処罰制度があったが、21世紀の朝鮮にも、政治的処罰の一種として「定配」は厳然と存在するのだ

都市住民が追放される理由は様々だ。指導者や金氏一族、労働党に対する放言、失言あるいは愚痴が運悪く摘発されると、「マルパンドン(言葉の反動)」として追放処分になる事例がたくさんあった

韓国や中国との秘密通話、密輸や人身売買への関与、不正蓄財、親類縁者の脱北など体制秩序を乱したとみなされたケース。そして冒頭にL氏が伝えてきたように、本人に何の罪もないのに、近しい人間の処罰に連座して追放されることも多い

◆追放されると孫代まで最下層の農民

追放が裁判に基づいて行われることはまれで、通常、保安機関から口頭で言い渡され、連れて行かれる

追放措置といっても、どこかに拘禁されるわけではなく、通行証明証を取れば他所に旅行することもできる。しかし、北朝鮮で農村に配置されるというのは人生の転落、絶望を意味する

もっとも貧しく、もっとも権力者に虐げられ、浮かび上がることが不可能な存在、それが農民だ一度農村に配置されると、その子も孫も代々農民の身分は変えられず、都市への移住はよほどのことがない限り許されない

北朝鮮における政治的な処罰は、もっとも厳重なのが「管理所」(政治犯収容所)送りだが、もっとも軽い処罰が、追放されて「疎開民」に貶められることだと考えていいだろう

冒頭の白岩郡は北朝鮮における代表的な追放先だ険峻な山あいの農業地帯で、郡内の楡坪(ユピョン)労働者区の一部地域は「平壌村」として知られている。平壌から追放されてきた「疎開民」たちが多いからだ

筆者は一度ここを仕事で訪れたことがあるが、平壌言葉で話す人の多さにびっくりした。地元の住民が「人口の半分ぐらいは『疎開民』ではないか」と語ったことが印象に残っている

平壌から来た「疎開民」は、追放先の僻地の住民にとっては「お高くとまっている」ように受け取られがちだその上、基本的に「お上に咎めを受けた者」「犯罪者の縁者」であるため、現地住民から疎外・差別されて暮らしている。

筆者の知人で2013年に脱北したある女性は、親類の罪に連座して平壌からある地方の山間僻地に、10歳にもならない息子と共に追放された。彼女は「疎開民」として暮らすことの苦労を、私にこう明かした

「農場に配置されたのだけれど、追放当初は家もなかったので、電気もない農場施設の倉庫で暮らしました朝、子どもたちを保育園に預け農場に出ますが、家を空けている間に、家財道具が一つまた一つと盗まれていく

農場の保安員(警察)に言っても知らんぷり。息子を地元の子どもたちは平壌の言葉を使う『追放者』の子だといじめるし、毎日泣きながら過ごしていました

平壌市民にとって、農村や鉱山などに追放され「疎開民」となるのは、まさに悪夢だ

一方、「疎開民」の中には再び平壌へと舞い戻る特殊な人々もいる。平壌で手広く商売をし蓄えの多い人は、賄賂の力で追放地を近場にしてもらい、そこでも商売で成功する場合がある。さらに賄賂を積んで一、二年で平壌に復帰することだってある

北朝鮮では本来、「疎開」という言葉は日本と同じく、戦災からの避難を指す言葉として使われてきた。

明日をも知れぬ「追放者」の身に落ちた人々が、自らを慰めるために、「疎開民」と自称したのが由来ではないかと、筆者は推理している

都落ちである追放が代々続くのではなく、「一時的な移住」として終わって欲しい、北朝鮮人らしい儚い願いが込められているというのは、あまりにナイーブな見方であろうか。(ペク・チャンリョン)

アジアプレス・ネットワーク2016.03.16

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