化合物MU→がん細胞の増殖・移転を抑制

弘前大学大学院医学研究科の研究チームは、がん細胞の増殖・転移を促すとされる「ヒアルロン酸」について、「4-メチルウンベリフェロン」(MU)と呼ばれる化合物が、その合成を抑える働きがあることを世界で初めて発見した

がん進行を抑える全く新しいタイプのがん治療薬の開発に向け、全力を挙げている。現在、マウス実験を行い、がん抑制効果を確認している。新治療薬は、がん細胞の間にある物質に直接作用してがんの進行を抑制するため、がん細胞を直接攻撃する従来の抗がん剤のような副作用が少なく、安全性が高い-と期待される4、5年後の臨床実用化を目指している。世界の研究者もMUの作用に着目し、新治療薬の開発を競っている。
ヒアルロン酸は動物組織に広く存在し、細胞や組織をつなぐ粘度が高い重要な結合物質がん細胞の中にあるヒアルロン酸の本態の解明は進んでいないが、がん組織がヒアルロン酸を多く産出するとがん細胞が転移しやすくなったり、がんの悪性度が増すことが分かっている
弘大医学部生化学第一講座(現糖鎖医化学講座)の遠藤正彦教授(前学長、糖鎖医化学講座特任教授)が1995年、「プロテオグリカン」の細胞培養の研究中、ヒアルロン酸の合成を阻害する物質が存在することを見つけた。それが、胆汁を出やすくする薬として使われていた化合物(MU)であることを世界で初めて発見し、合成阻害の仕組みを解明した研究とともに国際専門誌に論文発表した。
研究は2000年、当時生化学第一講座の大学院生だった工藤大輔医師(現・消化器外科講師)に引き継がれ、マウスを使ったMUのがん抑制効果の研究が始まった。工藤講師が、皮膚がんの一種「メラノーマ」を植え付けたマウスに、MUを経口投与したところ、マウスのヒアルロン酸量が減っていることを確認。MUを投与していないマウスに比べ、がん細胞の大きさが3~4割小さくなっていることを見つけ、04年に論文を発表した
現在、弘大本部の財政・人的支援を受け、同大消化器外科学講座(袴田健一教授)、糖鎖医化学講座、薬剤学講座(早狩誠教授)などがプロジェクトチームを組み、治療薬としての有効性と安全性を検証。特に、死亡率が高い膵(すい)がんの治療薬として開発に力を入れている。今後、人に対する臨床研究を経て、安全性が確認されれば最短で4~5年後の臨床実用化を目指している。
同研究には、名古屋大、慶応大など国内の研究者をはじめ、米国、スペイン、ドイツなど欧米の研究者も着目。各研究者が、大腸がん、乳がん、胃がん治療で、新薬の開発にしのぎを削っている。
工藤講師は「従来の抗がん剤や分子標的薬は、がん細胞を直接攻撃するため、正常の細胞も傷つける恐れもある。しかし、MUは細胞と細胞の間にあるヒアルロン酸に作用し、その合成を妨げるため、副作用は少ない。あらゆる種類のがんに効くものと期待される」と話し「MUは、化学合成された物質なので極めて低コストで生産できる。新薬が実現すれば、患者の経済的負担軽減、医療費抑制にもつながる」と語っている
遠藤特任教授は「薬剤の開発へ向け世界が競争している。ぜひ頑張って弘大が新薬開発にこぎ着けたい」と意欲を見せた。
弘大の研究成果の一部は14年10月、京都で行われた日本生化学会で発表された。

参考 東奥日報社 2015.01.01

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