劣化する資生堂→シェア低下深刻化

資生堂が招聘した「プロ経営者」への初採点は、厳しいものとなった。

資生堂は10月31日、2015年3月期通期の業績予想を下方修正した。売上高は期初予想の7800億円から7700億円へ、営業利益は同420億円から250億円へ、最終利益は同380億円から300億円へそれぞれ引き下げた中国事業の失速で過剰在庫が膨れ上がり、これを圧縮するため期初に想定していなかった在庫引当金130億円が15年3月期下期に発生する。これが響き、通期の営業利益は前期比49.6%減と、ほぼ半減する見通しだ

4月1日付で日本コカ・コーラ会長から資生堂社長に転じた魚谷雅彦氏は、同社としては初めて外部から招聘された社長。前田新造前会長兼社長の意向によるものだが、魚谷氏は就任以来「公家の資生堂を野武士の資生堂に変える」(同社関係者)と精力的に改革を進めていた。

「The future begins today(今日から未来が始まる)」。4月8日、資生堂が東京・銀座の本社ビルで「資生堂マーケティング改革第1弾」と銘打ち開催したグローバルブランド「SHISEIDO」の新美容液「アルティミューン パワライジング コンセントレート」の発表会で、魚谷社長の口から最初に出た言葉だった。新美容液は昨年4月、前田氏の後任含みで同社マーケティング統括顧問に就任した魚谷氏が、資生堂ブランド再構築に向け、企画から携わった製品。それだけに、発表には熱がこもっていた。

プロ経営者として同社の改革を託された魚谷氏には、2つの課題が待ち構えていた。化粧品事業の国内外双方の立て直しだ

●シェア低下進む国内市場

国内化粧品事業は、13年3月期まで7期連続で売上高が減少。14年3月期は消費増税前の駆け込み需要で8期ぶりに前期比1.1%増となったが、もちろんこの程度ではV字回復にほど遠い。シェアも13年度は20.9%で、直近ピークの06年度より5.1%低下している。国内化粧品事業低迷の主因は「資生堂の劣化」(証券アナリスト)といわれている

国内化粧品市場はこの5~6年、2兆2000~3000億円台の、ほぼ横ばいで推移(矢野経済研究所調査)。この成熟市場の隙間を狙って異業種の参入も相次ぎ、既存化粧品メーカーがラインナップできない製品を投入し、競争が再び激化している。長く続いたデフレ経済下で、国内化粧品の売れ筋は高価格帯から中・低価格帯へシフト

価格志向を強めた消費者は化粧品専門店や百貨店から、ドラッグストア、総合スーパーなどの量販店へ流れていった。このため、有名女優をイメージキャラクターに高価格帯化粧品を売る同社得意の販売戦略が通用しなくなった

価格帯別競争では、高価格帯では日本ロレアルなどの外資系との競争が激化しているが、今のところは国内約1万人といわれる美容部員によるカウンセリング販売の強みで、なんとかシェアを維持している

だが中価格帯ではライバルのカネボウ化粧品コーセーにシェアを奪われ、低価格帯では量販店ルートに強い花王の攻勢に加え、富士フイルムロート製薬などの異業種グループが台頭、シェアを侵食されている。

●海外大型M&Aで特別損失計上

一方、売り上げの50.5%を占める海外事業(14年3月期)も、大型M&Aの誤算で重症化している。化粧品のグローバルプレイヤーを目指す同社は10年1月、米国の天然化粧品大手ベアエッセンシャルを約1800億円で買収、米国事業本格化に乗り出した。ところが買収後の広告宣伝戦略の失敗に米国天然化粧品市場の競争激化が重なり、ベア社は業績不振に。このためのれんが毀損し、13年3月期に286億円の特別損失計上を強いられた。今期は広告宣伝戦略の修正やベア社本来の強みであるテレビ通販強化などで業績立て直しに腐心しているが、成果は「来期以降でなければわからない」(資生堂関係者)心細さだ。

そこへ今期は、売り上げの14.6%を占める中国事業の失速が表面化した。今春、上海市内の高級百貨店恒例の春夏季新製品特設売り場に、資生堂の化粧品は並ばなかった。商店焼き打ちもあった昨年の「激しい反日デモの影響に配慮した」と同社関係者は釈明する。だが化粧品業界関係者は「化粧品の需要が急速に高まった中間層向けの新製品をラインナップできなかったのが原因」と指摘、次のように説明する。

中国事業の現地販社では、ノルマ達成のための押し込み販売が常識実需をはるかに超えた量の製品を百貨店や化粧品専門店に出荷店頭で積み上がった過剰在庫をさばくために、販売奨励金を湯水のように注ぎ込んでいた。これが冒頭の在庫引当金発生原因になっている。また、販売奨励金の天井知らずの増加が販促費や研究開発費の不足を招き、前述の中間層向け新製品不在となった

●マーケティング力を強化

魚谷氏には、こうした一筋縄でいかない国内外事業の立て直しが課されているが、自信はあるようだ。

魚谷氏は1年半前のマーケティング統括顧問就任直後から全国の販社や専門店を飛び回り、業績不振の真因を現場で探ってきた。その診察で判明したのが「マーケティング力の弱さ」だった。そこで処方箋を「経営の中核にマーケティングを据える」としたが、その意味は「現在は、本社と現場の距離が遠くなっている。会社全体が顧客と現場に向いて仕事をするようになれば、マーケティング力が強まる」(同社関係者)というもの。

 

このマーケティング力強化策として、10月1日から実施したのが「BM(ブランドマネージャー)制」導入と「CMO(Chief Marketing Officer=最高マーケティング責任者)」の新設。前者はブランド別に商品開発から販売までを一気通貫で管理、製品の損益をブランドごとに月次で把握する仕組み。売れ行きや販売ルートの特性に合わせ、きめ細かい販促を迅速に実施するのが目的だ。後者はブランド戦略自体を統括する役員。経営の軸を「技術・製品」から「顧客・市場」に転換するのが目的だ。「魚谷改革」の第1弾でもある。もっともBM制もCMOもコーセー、カネボウ化粧品などのライバルは約3年前から実施済みであり、業界内からは冷ややかな声も聞かれる。

魚谷氏は10月31日の記者会見で「来期、再来期あたりで業績V字回復ができるとは思っていない。来期、再来期は腰折れのしないV字回復に向けて、切れ目のない改革を続けていく」と述べ、やがて下される厳しい評価への予防線を慎重に張っている。

「公家の資生堂」と揶揄されるひ弱な老舗企業を「野武士の資生堂」にどこまで鍛えていくことができるのか。プロ経営者・魚谷氏の手腕に注目が集まっている。

参考 Bisiness Jornal 2014.12.24

 

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