働く女性、妊娠に不安→マタハラを恐れる

● 社会問題化するマタハラ 防止策制定が義務化へ

 セクハラ、パワハラが社会問題化して久しいが、第三のハラスメントととしてマタニティ・ハラスメント(マタハラ)が市民権を得てきた。今月17日、マタハラに関するある訴訟に判決が下った。広島市の病院に勤務していた女性が、妊娠を理由に降格されたことを違法として訴えていた裁判だ。判決は、ほぼ原告の請求通りの慰謝料支払いを命じるもので、20日には病院側が上告を断念。原告の5年に及ぶ戦いにようやく決着がついた

そもそもこの裁判、一審・控訴審と原告の女性が敗訴していたが、2014年10月、最高裁判所は判決を破棄し、高裁に差し戻した。この際、マタハラに関して最高裁が初の判断を行ったということで、大きな話題となったこの判断に対して厚生労働省は素早く動き、全国の労働局に対して企業への指導を厳格化するように指示している。その厚労省だが、今月25日には、マタハラの防止策を企業に義務付ける方針を打ち出した

現行法でもマタハラの禁止は明示されているが来年の通常国会に改正案を提出する予定のようだ

● 働く女性の半数が 妊娠を喜べない悲惨な現状

ここ数年で急激に定着した感のある「マタハラ」という言葉。日本労働組合総連合会(連合)が2013年から行っているマタハラに関する意識調査からもそれが見て取れる。調査は過去5年以内に、在職時妊娠経験がある20代~40代の全国の女性654名を対象に、今年8月に行われた。「マタハラという言葉を知っている」と答えたのは93.6%。13年には6.1%、14年には62.3%だったので、認知度が上昇しているのは間違いないのだが「状況の変化を感じない」という回答が63.5%となっている

 マタハラの経験があるかという問いには、71.4%がないと答えている。しかし、育児介護法などの法律・制度の認知があまり進んでいないようで、時短勤務や子どもの看護休暇、時間外労働の制限などを理由にする不利益な取り扱いが禁止されていることを認知している人は31.7%だ。ひょっとすると、法律上は禁止されたマタハラにあたるにもかかわらず、本人がそれを意識していない、気づいていないというケースもあるのではないかと考えてしまう。

このアンケート結果、全体的に働く女性の厳しい現状を見せつけられる気持ちになるが、読んでいて悲しくなってしまった項目がある。「仕事をしながら妊娠が分かったとき、『仕事と自分の生き方』や『家計への影響』なども踏まえて、ご自身の心境に近いものをお選びください」という問いに対する回答だ。44.2%は「嬉しくて素直に喜べた」と答えているが、「嬉しかったが、同じくらい不安を感じた」が40.4%に上り、さらには「嬉しかったが、それ以上に不安を感じた」が9.2%、「不安しか感じなかった」という人も6.3%と、決して無視できない数字だ

 さらに育休取得を考えた人のうち、4割の人は取得したかったにもかかわらず、何らかの事情で取得できなかったという結果や、有期契約労働者でも条件を満たせば育休取得ができることを8割の人が知らないという事実を見ると、母親となった女性だけでなく、生まれてきた子どもにとっても、まだまだ困難な状況と言えるだろう。女性が子育てすべしと主張するつもりは毛頭ないが、育休を取りたくても取れない女性がいて、では子どもはどうなるのか、誰が面倒を見てくれるのか

● “男社会”が前提にある 急ピッチのマタハラ対策は功を奏すか

マタハラに対する法整備や企業側の意識改革、国や地方自治体の子育て支援など、さまざまな事柄が急ピッチで進められようとしているが、やはり根幹の部分には、「子育ては女性がするもの」という固定観念があって、そこをどうにかできないかぎりはうまく収まることはないのではというのが私の考えだ。連合のアンケート結果を読んで、その考えはなおさら強くなった。共働きしていても生活が苦しい世帯が少なくない中で、「男は会社で戦ってんだ」的価値観はやはり淘汰されるべきものではないのか。

男の子育てということを考えると、10年以上前に発売されたあるゲームのことを思い出す。重大なネタバレになるので題名を出すのは避けるが、「○○(アニメの題名)は人生」との賞賛の言葉がネット上を飛び交うぐらいに一部で人気を博した作品だ。主人公はヒロインとの間に子どもを授かるが、直後にヒロインは亡くなり、主人公はほとんど廃人のようになってしまう。それから5年もの間、子どもはヒロインの父母宅に預けられる。最終的に主人公と子どもは和解するのだが、長い時間をかけてエンディングにたどり着いた私はどうにも納得ができなかった。

もしも、主人公とヒロインの立場が逆転し、残されたヒロインが育児放棄(と私は断言するが)していたとしたら、この作品の評価はどうなっていただろうか。ヒロインにはあらん限りの暴言がぶつけられ、作品も駄作として片付けられていたのではないか。このゲームはその後、アニメ化もされ、評判は決して悪くなかった。こちらも長い時間をかけて全部見たが、周りの評価に賛同できなかった。「男親だからしょうがない」というような言葉も散見した。今なお、その考え方が現実の問題につながっているように思えて仕方がない。制度以上に、個々人の考え方や捉え方を変える必要があるのではないか。

「公」ばかりに任せていられないと断言できるデータがある。昨年、全国フェミニスト議員連盟が、全国の地方議会の女性議員(現職・元職含む)を対象にアンケート調査を行った。東京都議会セクハラやじ問題を受けてのものだが、目を覆いたくなるような結果だ。回答した143人中、議員や自治体の職員からセクハラを受けたと答えたのは74人。地方議会に限ったことではなく、この国の行く末を議論しているいろいろなところで同じようにセクハラは起こっていることだろう。そこから下りてくる施策だけに、私たちは頼ってはいられないはずだ。 唐仁原俊博[ライター]

参考  ダイアモンド・オンライン  2015.11.28

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