中東断裂が中国の希望を砕く

2016年は物騒なニュースとともに明けた。1月3日、「サウジアラビアのジュベイル外相が、イランとの外交関係を断絶すると表明した」と、サウジ国営通信が伝えたのだ。日本にも衝撃が走ったのは、サウジとイランの国交断絶が、第5次中東戦争の危険さえ孕んでいるからだ

イスラム教スンニ派が国民の85%を占めるサウジアラビアとイスラム教シーア派が91%を占めるイスラム大国イランの間の対話のチャンネルが切れたということは、スンニ派とシーア派の間の問題解決の手段は戦争しか残されていないという意味でもある

サウジアラビアに続いて、サウジアラビアと同じスンニ派の王族が支配しているバーレーンと、スンニ派が国民の多数派を占めるスーダンも、イランとの外交関係を断絶すると発表した。まさに、中東で、スンニ派とシーア派の断裂が起こっているのだ

サウジの影響力低下は織り込み済みの米国

 中東の断裂は米国や欧州各国が心配する事態であるが、サウジアラビアに対する米国のグリップが効かなくなっていることを示すものでもある。欧米及びロシアは、核兵器開発に関してイランと合意に至っているが、米国のイランに対する融和的姿勢はサウジアラビアにとって許容できないものだイランの核問題を解決に向かわせる代わりに、米国はサウジアラビアに対する影響力を失ったのだと言える

サウジアラビアに対する影響力の低下は米国にとっては織り込み済みだという分析もある米国はイランの核兵器開発の中止を優先させたのだ。一方で、米国のメディアは、オバマ政権は、同盟国であるサウジアラビアとの関係を再構築しなければならないという圧力に晒されていると報じている。

米ロ両国はサウジアラビア及びイラン双方に自制を求めている。すでに、ケリー米国務長官が事態の緊張緩和に向けて動いている。ロシアも、「イランとサウジアラビア間の関係改善のため仲裁する用意がある」としている。米ロともに、中東での大規模な衝突を避ける努力を見せるのは、中東で、スンニ派とシーア派が衝突すれば、米ロも巻き込まれる可能性があるからだ

中東で大きな影響力を持つ、サウジアラビアとイランの対立は、中東を二分した軍事衝突に発展しかねない。現に、バーレーンもスーダンもサウジアラビアに追随しているシーア派の盟主の地位を回復したいイランはイラク及びシリアとの連携を深め、いわゆる「シーア派ベルト」を構築しようとするだろう米国は、同盟国たるサウジアラビアが戦闘状態になれば、無視することはできないシリアを支援し、イランとも良好な関係を持つロシアも、黙っていられなくなる

中国は中東情勢をどう見ているのか?

 米ロが、軍事衝突を避けるようにサウジアラビア及びイラン双方に自制を求めているのに対して、中東や地中海沿岸国に影響力を強めつつある中国は、情勢をどのように見ているのだろうか。米国や国際社会の関心が中東に向かえば、南シナ海における中国の自由度が高まると考えられることから、現在の状況を歓迎しているのか。いや、問題はそのように単純なものではない。

中国にとって、中東の断裂は、「中華民族の偉大な復興」という中国の夢を砕く可能性を持つ深刻な事態である。そもそも、中国が南シナ海をコントロールしたいのは、米国の対中武力行使を抑止しつつ、インド洋から地中海にかけての米海軍のプレゼンスを少しでも低下させるために南シナ海を航行する米海軍艦隊にコストを強要したいからだ

米国海軍のプレゼンスを低下させることができれば、地中海等における中国海軍のプレゼンスも活きてくる。そのために、中国は空母や大型駆逐艦を建造し、海軍を増強しているのだ。地域に対して、中国の影響力を行使できることが重要なのである。影響力を行使して中国が実現したいのは、「一帯一路」イニシアティブによる、中国が主導する巨大経済圏の創出である

「一帯一路」が中央で破壊される

 中国の「一帯一路」の終点は、地中海沿岸国であり大西洋東岸である、とされる。もし、中東の断裂が深刻になり、軍事衝突を起こすことになれば、中国の「一帯一路」は、その中央から破壊されることになる。さらに、「21世紀の海上シルクロード」構築の重要な目的の一つであるエネルギー資源の海上輸送の出発地が衝突のただ中に置かれ、海上シルクロードの意義さえ失ってしまう。

 中国にとって、「一帯一路」は米国のアジア回帰によって生じる米中対立を避け、西へ向かうものである。そして、中国の継続的な発展をかけた経済活動の海外への展開でもある。もし、中国の経済発展が停滞したら、国内の経済格差は解消できず社会は安定を失う。共産党の統治が危うくなるという意味だ

中東の断裂は中国の経済発展戦略を根底から覆すかもしれないのである中国は、米国やロシアと異なり、イランかサウジアラビアのいずれかの側に立つことなく、双方とも良好な関係を築こうとしてきた。海外にニュースを発信する中国メディアは、「サウジとイランの断交は、中国に大きな難題をもたらした」と報じている。

中国は「黙って見ている訳にはいかない」としつつも、その立場は複雑である。今さら、サウジアラビアかイランかの、どちらかの側に立つことができないからだ。中国は、イランにもサウジアラビアにも、巨額の投資をし、安全保障面での協力も強化している

中国国内の報道は、事実を伝えるに止まっている。現段階では、それ以上に踏み込むことが難しいのだ。中国は中立の立場を崩していない。中国が見ているのは、サウジアラビアとイランだけではない米国とロシアの動きが問題である

中国は中東等の地域において、米国と影響力行使の競争をするために、海軍の増強に努めてきた。しかし、中国にとってみれば、中東の断裂は、早く起こり過ぎた現在の中国の軍事力では、米国とのプレゼンス競争に勝てないばかりか、地域に影響力を行使することも難しい中国は、サウジアラビア及びイランに対する自らの影響力が十分でない以上、米ロがプレイする大国のゲームの中で行動せざるを得ない中東の情勢を安定させるにも、米ロの影響力次第ということである

中国は、サウジアラビアとイランの緊張を緩和するための、米国とロシアの取り組みに、どのように関わるかを模索しているサウジアラビアとイランのバランスをとり、緊張を緩和するためには、中国は米国とも協調的な姿勢をとるだろう

海軍力増強の必要性を思い知る中国

 しかし、問題は、サウジアラビアとイランの間で軍事衝突が起こってしまった場合である中国は、中東において、米国の影響力が強くなりすぎることを警戒している米国がサウジアラビアを強力に支援して、地域のパワーバランスが崩れそうになったと認識したら中国は、南シナ海において、米海軍に対する圧力を高めるかもしれない中東に展開する米海軍艦艇の航行を妨害するのである

中東で軍事衝突が生起すれば、中国は石油の輸入にも窮することになるせっかく、ロシアからの天然ガスの購入等によって、ウクライナ危機で経済的窮地に陥ったロシアを助ける形になっているものが今度は中国がロシアに助けてもらうことになりかねない。これも中国にとっては避けたい状況である
いずれにしても、中東における軍事衝突は、中国にさらに難しい問題を突きつけることになるのだ

しかし、中東の断裂という状況は中国に軍事力、特に海軍力増強の必要性を思い知らせるものになっただろう。中国人民解放軍の改革は始まったばかりであるが、中国が改革を加速し、空母打撃群を、早期に、インド洋から地中海に展開しようとすることは間違いない中国は、大国として地域情勢に影響を与えてこそ、自らが生き残れると考えているのだ

参考 wedge   2016.01.08

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