中国減速→人民元大幅切り下げという悪夢

 「改革開放政策を堅持するかぎり、中国経済のハードランディングはない」――中国の国会に当たる全人代(全国人民代表大会)は3月16日に12日間の日程を終えて閉幕。北京の人民大会堂で締め括りの記者会見に望んだ李克強首相は、中国経済の先行き不安を強く打ち消した

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さらに「小幅で短期的な波動はあるだろう。しかし経済が合理的な範囲に収まらない場合はマクロ政策で安定させられる」として、必要な場合は財政出動などで下支えする方針も示した

■ 異例なことが3つ

昨年の中国の経済成長率は6.9%と、25年ぶりの低水準だった。さらに大きく減速するようなことがあれば、世界経済全体の足を引きかねない。それだけに全人代で発表される今年の目標数字には世界から注目が集まった。

李首相らによる経済政策の説明には、異例なことが3つあった。

まず、今年の経済成長率の目標が6.5~7%と、初めて範囲つきで示されたこと。昨年は「7.0%前後」と目標値に若干の含みをもたせたが、さらに振れ幅が広がった

次に、財政赤字の対GDP比率が3%と、昨年実績の2.4%を大きく上回る過去最高の水準で設定されたことだ。楼継偉・財政部長(財務相)は記者会見で、状況次第では財政赤字を3%以上にすることもあると説明している

 3つめは、例年は明示されていた貿易総額(輸出入の合計)の目標数字が公表されなかったことである昨年は6.0%増という目標を掲げていたが、実績は8.0%減という大幅なマイナスだった輸入の減少には人民元安の影響がかなりあり、原油など輸入量が増えているのに輸入額はマイナスという商品もある。外需の読みにくさなど、不確定要素が多すぎるという判断だろうか。

この3つは相互に関連しあっている。

20年までの第13次5カ年計画では、期間中の成長率は平均で6.5%以上と定められている。その下限を目標の範囲内に含めたのは、前年水準より大きく成長率を落としてでも経済の構造改革を優先するという姿勢の表れだろう。かりに経済の冷え込みが想定以上になった場合は、財政出動の拡大で底割れを防ぐ構えだ

■ 輸出を増やしたいのが本音

貿易総額についてはどうか。欧州や新興国の景気低迷で、外需の伸びは自然体では期待できない3月8日に発表された1~2月の輸出額(米ドルベース)も17.8%減、輸入は16.8%減という大幅なマイナスとなった。しかし、中国は一方で、現代版シルクロード構想の「一帯一路」戦略を掲げている。ここには、陸の「新シルクロード経済帯」と「21世紀海上シルクロード」の沿線国を、中国が抱える過剰生産能力のはけ口とする狙いがある。輸出は増やしたいのが本音だ

中国にとって、今年の最大の政策課題の一つが国有企業が抱える過剰生産能力の解消である。昨年秋以降、構造改革のビジョンとして示されたのが「供給側改革」だ。その眼目は、赤字が続いていて地方政府からの補助金で維持されている「ゾンビ企業」(ゾンビを意味する”殭屍”の広東語読みが”キョンシー”)を市場から退出させ、過剰生産能力を淘汰させることにある

 リーマンショック後に行われた4兆元の景気対策により、中国では鉄鋼や石炭採掘といったインフラ関連の産業で設備投資競争が行われた。12年の習近平政権成立以来、その能力削減がテーマとなってきた。直近の3年で鉄鋼9000万トン、石炭2億トン、セメント2.3億トンの生産能力を削減してきたという

鉄鋼を例にとれば、国内需要の低迷を受けて昨年の中国の粗鋼生産量は2.3%減の8億0383万トンと、34年ぶりに減少したところが中国には粗鋼の生産能力が12億トンもある。実に4億トンが余っているわけだ。日本の粗鋼生産量が年1億トンということを思えば、問題の深刻さは想像を超えるレベルといえる。

膨大な鋼材を国内では消化しきれないため、海外への投げ売りが拡大。中国の15年の鋼材輸出は1億1240万トンと、前年より2割も増えた。にもかかわらず、金額は逆に1割以上減った。いかに強烈な叩き売りだったかがわかる

■ 生産能力を大幅に削減

中国政府は今後5年で粗鋼生産能力を1億~1.5億トン削減する考えだ。現状の生産能力の1割前後を減らすことになる。石炭では3億トンの生産能力削減が計画されている。設備が環境や省エネに関する国の基準を満たさなかったり、3年連続で赤字の企業が、地方政府によってリストラを強制されることになりそうだこれに伴って生じる失業者は100万人以上とみられ、その再就職支援のため1000億元(1元は17.3円)の国費を投入することが決まっている。

しかし、鉄鋼や石炭といった産業が立地する地域に新しい就職口があるかというと、そう簡単ではない。市場原理による淘汰ではなく、地方政府がリストラ対象を選定するという仕組みがどれだけ有効に働くかも疑問符がつく。結果的にうまく行かなかった場合、過剰生産能力のはけ口はやはり一帯一路ということになりかねない。このあたりをあえてぼかすため、輸出入の方向性については明らかにしなかったのかもしれない。

経済の減速ぶりが中国政府の想定を超えた場合、為替レートの安定を重視する現在の通貨政策を方向転換して人民元を大幅に切り下げる可能性もあるそうなれば中国製品の輸出競争力は一気に高まるが、これは周辺国にデフレを輸出するということにほかならないさらには世界的な通貨切り下げ競争に発展するリスクもある。こう考えると、貿易総額の目標が示されなかったことが非常に不気味に思えてくる

西村 豪太

東洋経済オンライン2016.03.17

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