中国の脅威で米越接近→日本の関与は

● 米国のベトナムへの武器輸出解禁 対中国で利害が一致

5月23日、ベトナムを訪問していたオバマ米大統領は、ベトナムに対する武器輸出を全面解禁すると発表したベトナムは世界で唯一、米軍に勝利した国だ。そのベトナムが、今、米国から武器を購入することが可能になった

 その背景には、南シナ海で領有権を巡って紛争が鮮明化する中国との関係がある

ベトナムとすれば中国の最大のライバルである米国と親密化を図ることで、中国を牽制する意味がある

今回の決定は、そうしたベトナムの思惑と、対中国の抑止力強化という米国の利害が一致したことを示している米国がベトナムの人権問題などに懸念を示しつつも、米国が歩み寄ったことで、アジア地域の安全保障にとって大きな一歩が踏み出されたことになる

中国は南シナ海のスプラトリー諸島、パラセル諸島などで埋め立てを進め、軍事拠点を設営してきた中国はベトナムの排他的経済水域に石油探査リグを設けるなど、他国の資源をも手中に収めようとしている

そうした中国のスタンスは、国際法あるいは倫理的な観点からも容認されるものではない一方、中国は世界第2位の経済大国だ。ベトナムは真正面から中国と対立し、中国市場へのアクセスを失うことは避けたいはずだ

今までベトナムは軍事面でロシアとの関係が強かったその中で、今回、米国の武器輸出の全面解禁という米越間の関係強化が進んでいることは、今後の同国を巡る情勢を大きく変化させることになるだろう当然、わが国にも相応の影響があるはずだ

 これまで中国は南シナ海で埋め立てを行って領有権を主張し、拡張主義を進めてきたが、これは国際法上の観点からも容認されるべきものではないそれは、ベトナムやフィリピンなどの諸国との対立を生んだ

そうした行動は、他国の主権を無視しており、明らかに誤った政策だ長い目で見ると、近隣諸国との関係悪化などを通して、いずれ中国自身が不利益を被る可能性が高いすでにフィリピンは中国の領有権主張が国際法に違反しているとオランダ、ハーグの仲裁裁判所に提訴した

● “アメとムチ”を使い分け アジア新興国に恭順を求める中国

中国の海洋進出を経済的な観点から考えると、同国の“一帯一路(シルクロード経済圏構想)”の提唱が一つの鍵になる中国はアジア、中東、ロシア、北アフリカ、そして欧州経済へのアクセスを確立し、経済基盤を強化しようとしている

中国はアジア新興国等に対して “アメとムチ”を使い分け恭順を求めているアメの部分は、アジア新興国に対するインフラ開発の支援だ

中国は世界各国に対してAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加を呼びかけたこれは、各国に対して、中国の意向を尊重すれば恩恵を享受できる、とのメッセージだ

 一方、中国の意に沿わない国に対して、力の論理をもって圧力をかけているそれがムチの部分だ中国はベトナムに対して、水面下で海洋資源の共同開発を呼びかけたといわれている

しかし交渉が難航すると、中国はベトナムの排他的経済水域に進出し、無断で石油掘削装置を設置した。軍事施設の設営も、中国を尊重せよとの圧力の表れとみられる

中国の国内事情を考えると海外経済の需要を取り込み、自国の成長を支える力を民衆に示すことが必要なのだろう

それは中国・習近平政権の威信にかかわる問題だ共産党の影響力が弱まっていると民衆からみなされれば、国内政治の安定にも影響が出かねないそのため、中国は自らの意を尊重しない国に対して高圧的な行動をとり、結果として領土問題を引き起こしてきた

しかし、そうした高圧的なスタンスは長期的に見れば国際社会からの非難を浴びるなど限界が露呈するはずだ習近平政権は、ある意味で危険な賭けを行っているともいえる

 そうした中国の拡張主義に対して、ベトナムはこれまでも一定の抵抗を示してきた。ただ、ベトナムの置かれた状況は単純ではない。

● 極力、中国との衝突は避けたい ベトナムの事情

世界第2位の中国経済へのアクセスを確保することは、ベトナム経済の成長を支えるためには欠かせない「極力、中国との衝突は避けたい。しかし、中国が海洋進出を強く進めるのであれば、自国を守る準備も必要」というのがベトナムの本音だろう

今まで、ベトナムは中国に抵抗するために、自国の軍事力の増強を進める一方、経済面でもTPP協定に参加を表明してきたベトナムは中国の動きを牽制するために米国との関係を改善、強化するスタンスを示してきた

 一方、米国にとっても、中国との領土問題を抱えるベトナムとの関係を強化することは、対中国政策を強化しアジア地域での存在を確認するために重要だ

また、ベトナムは歴史的にロシアとの軍事的な関係が強い。そのため、中国との関係を考えた時、中国以外の国との結びつきを強化することは意味がある中国の海洋進出を牽制するために、ベトナムはロシアから潜水艦を購入した

それと同時に、ベトナムは中国との経済的な関係を重視して、AIIBの創設メンバーにも名を連ねているつまり、ベトナムは、中国・米国・ロシアの3大国との関係を利用する一方、それらの国との微妙な距離感を維持してきた

それが、(1)安全保障の強化を中心に関係強化を進める米国、(2)脅威であるとともに無視もできない中国、(3)社会主義というイデオロギーや軍事的関係の強いロシアとの関係になっている

ベトナムは米国を後ろ盾に中国を牽制したいしかし、米国への歩み寄りが急すぎると、中国やロシアの機嫌をそこねることも懸念される特に、米国との緊密化が中国への敵対とみなされれば、中国はさらに強く南シナ海での領有権を主張するかもしれないベトナムを取り巻く状況は一筋縄では行かない

ベトナムは米中露のいずれの国との関係も良好に保つ必要があるベトナムがそうした態度を取り続けると、アジア地域の政治・経済・安全保障の問題はさらに複雑化する可能性がある

米国がベトナムに対する武器輸出の全面解禁を決めたことは、国際的な安全保障が新しい段階に進んだことを意味するかつて戦火を交えた米国とベトナムが協力関係を構築することで、対中包囲網の強化が鮮明になるからだ

● 中国の海洋進出に かなり脅威を感じている米国

米国は中国の海洋進出をかなりの脅威と考えている米国とすれば、中国の台頭を見逃してしまったという焦りもあるだろう。それが、今回の米国が武器の全面輸出解禁に結びついたと見られる

今のところ、中国は、今回の米国の決定に好意的とも取れる反応を示しているしかし本音では、中国がそうした見方をしていないのは間違いない今後、中国は「米国がベトナムへの武器提供でアジア地域の安定が損なわれる」と批判することは十分に考えられる。ただ、中国としてもベトナムを厳しく批判して、ベトナムがさらに米国寄りになることは避けたいはずだ

国際社会の注目が米中の対立に集まる中、ロシアのアジア地域への進出の動きも気になるベトナムへの軍事協力などを強化し、情勢が不透明さを増す可能性もある

こうして考えると、米越間の接近で対中包囲網が強化され、アジア地域の安定が促進されると結論するのは早計だ少なくとも、中国は、さらなる影響力の増強を目指して拡張主義を強める可能性もある

リーマンショック後米国は景気の低迷や中東政策の失敗が続き、覇権国家としての影響力が低下してきたそうした世界情勢を“Gゼロ”、あるいは“多極化”と呼ぶ専門家もいる

そうした状況下、米国の世論は自国の利害重視という“内向き志向”を強めている。それは大統領予備選挙の「トランプ現象」を見ても明らかだ

● 米国の影響力が低下 わが国はどうすべきか

問題は、米国の影響力が低下する中、米国に代わる世界のリーダーが見えないことだ少なくとも、拡張主義を唱える中国にはその役割は無理だ

中国の経済成長率が相対的に高い間、各国は中国との関係を重視せざるを得ないだろうしかし、中国経済の実力が低下すれば、中国の拡張主義に対する批判はさらに強まるだろう

長期的に見れば、現在の中国の外交政策は限界に直面し、方針転換を迫られる可能性が高いとみる最も懸念されるのは、アジアでの地位をめぐる米中の対立が深まり、軋轢が生じることだ

わが国にとって重要なことは冷静にアジア各国のニーズを汲み取り、関係を強化することだ今のところ、アジアの多くの国にとって、最も必要なものはインフラ整備だ。わが国には、それを支えるノウハウや技術がある。それを生かさない手はない

南シナ海の領土問題などを巡り、先行きの情勢が不安定になりやすい中、わが国は国際法の遵守を国際社会に訴えて中国の動きを牽制し、しっかりとした経済外交を通して各国との関係強化を進めればよい

真壁昭夫

ダイヤモンド・オンライン2016.05.31

 images-3-48-150x150images

【関連する記事】