中国の夢にブレーキ→頓挫する鉄道事業

中国が手がける中南米の鉄道プロジェクトが次々と頓挫している原油価格の下落で経済危機のベネズエラでは鉄道の建設現場が放棄されたカリブ海と太平洋を結ぶコロンビアとホンジュラスの計画も立ち消えにメキシコの高速鉄道は落札キャンセル後に無期限延期された南米大陸横断の構想はブラジル政治の混乱で視界不良…。“米国の裏庭”を駆ける中国製超特急の夢は、幻となりつつある。(坂本英彰)

◆歴史的な前進

見捨てられ、備品や資材が略奪されたベネズエラの鉄道関連工場-。AP通信は5月中旬、南米初の高速鉄道となるはずだったプロジェクトの現状を報じたベネズエラ国家鉄道局から施工を請け負っていたのは、中国の鉄道建設大手、中国中鉄だ

2009年夏に発表された計画は、ティナコ-アナコ間470キロで12年の完成を予定時速220キロの高速列車が走り、年間600万人の乗客と1千万トンの貨物を運んで内陸部の発展を促すと伝えられた

契約額は75億ドルで、中国が海外市場で得た当時最大の事業ベネズエラにとっても石油以外の分野での最大事業で、中国メディアは「中国中鉄の海外進出は、歴史的な前進を実現した」と持ち上げた

◆経済崩壊へ

 世界最大級の原油確認埋蔵量を誇り、反米左派のチャベス大統領が率いていたベネズエラは当時、中国にとって理想の友好国習近平政権が掲げる中華民族の偉大な復興「中国の夢」は、鉄道事業で地球の裏側にまで伸びる勢いだった

工事が順調なら高速列車はすでに走っているはず。ところがその後、動向を伝える報道はほとんどなくなった。厳しい現実に遭遇していたのだ。

ベネズエラ内陸部の小都市サラサコンクリート製枕木の製造工場は、天井や壁もない無残な姿に。昨年1月、最後の中国人マネジャーが去ると、現地では発電機やエアコン、鉄製の外壁や銅線など金目のものが持ち去られたという別のセメント工場も稼働の気配はなく、AP通信は「社会主義的な友愛モデルは経済崩壊のシンボルとなり、両国の戦略的関係も漂流しはじめた」と伝えた

原油安がベネズエラ経済を直撃し、公共サービスも低下国家鉄道局は給与遅配を繰り返すチャベス氏の後を引き継いだマドゥロ大統領に大プロジェクト遂行の余裕はない

◆中南米各地でも

中南米ではベネズエラ以外でも、中国関係の鉄道プロジェクトが次々と頓挫している。コロンビアでは11年、サントス大統領が太平洋とカリブ海を結ぶ鉄道計画を明らかにした。5年が経過するが進展の気配はなく、CNNは今年2月、コロンビアの経済省が取材に応じないと報じた

中米ホンジュラスでも13年、中国資本による鉄道計画が公表されたが、それっきりだメキシコでは14年、中国中心の企業連合が高速鉄道建設工事を落札したが、突然キャンセル。その後、財政難などからメキシコは昨年、計画自体の無期限延期を発表した

中国の李克強首相は昨年5月、ブラジルとペルーを訪れ、大陸横断鉄道の検討開始で合意したアマゾンやアンデス山脈を貫いて農産品などを運び、太平洋岸から出荷できるようにする壮大な計画だが、ブラジル政治の混乱もあり、実現性には疑問符がつくという

◆パニック状態

鉄道以外でも香港企業が14年末に着手した太平洋とカリブ海をつなぐニカラグア運河も停滞。今年末以降への工事延期が表明されており、CNNは「着工に至るのか専門家は疑いのまなざしを向ける」と伝えた

中国がこうした事業に取り組む背景には、パナマ運河を避け、米国に影響されない輸送ルートを確保する思惑があるまた中南米諸国との関係強化は、アジアで対中包囲網を築く米国への牽制(けんせい)にもなってきた

しかし昨年、キューバが54年ぶりに米国と国交を回復し、11月にはアルゼンチンで12年続いた反米左派政権が倒れた中南米の風向きは変わった経済悪化も加わり、中国はこれまでの深入りがアダとなる事態に直面している

今年のインフレ率が700%を超すとも予測されるベネズエラとの関係は特に深刻だ。両国関係に詳しいボストン大のケビン・ギャラハー教授はAP通信に「内部崩壊するベネズエラ経済に中国の憂慮は募り、もはやパニック状態だ」と指摘している

産経新聞2016.06.01

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