中国で実感→忍び寄る景気減速と格差現実

● 20億円の超高級マンションと 2人で600円の食堂が隣り合う現実

中国出張から戻ってきた。今年に入ってから最初の中国出張なので、その点描をご報告したい。

ご存じのように、中国人の多くは餃子が好きだ。しかし、上海では水餃子よりも焼き餃子が好まれる。「鍋貼(クオ ティ)」と呼ばれる上海の焼き餃子は日本のそれより皮が厚く、餡の肉汁もたっぷりある。その鍋貼に牛肉春雨スープというのは小さい頃の私にとっては贅沢な外食だった。

去年の年末頃、上海に出張していたときから、どうしたわけか、この鍋貼と牛肉春雨スープに抑えきれないほどの郷愁を覚え、食べたいと思っていた。今回はたまたまメディアのインタビューを受けたあと、すこし時間が作れたので、日本帰りの上海の友人と一緒にそれに挑戦した。

上海の高級住宅地にある鍋貼専門店に入り、念願の鍋貼と牛肉春雨スープを注文した味はもちろん、見事に裏切られた郷愁はやはり記憶に温存すべきものだと改めて認識した2人で31元(約600円)の夕食を済ませたあと、鍋貼専門店を出た。「民工(出稼ぎ労働者)なみの支出だった」と思わず感想を述べた

この店の隣は不動産仲介会社の店舗だ。大きな窓ガラスに物件の案内がたくさん貼られている。それにふっと目をやると、日本円に換算すれば1億円以下のものは見当たらなかった。一番高いのは9800万元(20億円近く)で売り出した中古マンションだ

 誤解を招かないために、先に断わっておきたい。これはマンションのビル1棟を購入する価格ではなく、マンションの一住宅単位だ。ただ、建築面積が約600平米で、ベッドルームは5つ、リビングルームは4つ、トイレ付バスルームは5つ、といった超高級マンションだ

31元対9800万元が隣り合わせしているこの現実に、改めて格差が開きすぎるほど大きい今日の中国社会の矛盾を体感した

● 上海、北京、海南島、 いずれも賑わいは消えていた

足に任せてすこし進むと、衡山路に入る。美しいプラタナスが道の両側を埋めており、ヨーロッパスタイルの屋敷は、いまも当時の麗しい生活を彷彿させているいまと昔が交差する景色が色濃く残っている界隈だ。別名バー・ストリートとも称されるほど、衡山路はお酒を楽しむ名所として広く知られている。昼間は人通りもまばらだが、夕暮れとともにどこからともなく、ピンヒールのイケイケギャルや仕事終わりのサラリーマンが集まり、活気に満ちる空間となる

しかし、今回、目にした光景は打って変ったものになっている多くの店は閉まっている。冬のせいかもしれないが、街は寂しげな空気に包まれている。冬とは言え、旧正月(春節)が10日後に控えていたこの時期は本来、もっと賑わってもいいはずなのに、と不思議に思った

上海だけではなく、北京でも同じような体験をした故宮のすぐ近くにあるホテルに泊まった。中国政府の中央官庁がよく利用しているホテルとして知られている。内部価格にしてもらったこともあり、宿泊費の手ごろ感に感激しただが、レストランに入ると、客は2、3組しかいなかった街のレストランも閑散としている。習近平氏が推し進めている腐敗撲滅で、公費を使って飲み食いする輩が高級レストランに行けなくなった結果かもしれない

レストランばかりではなく、デパートやスーパーでも活気がいま一つのような気がしたいままでは、旧正月を迎えるためにプレゼント用や縁起を担ぐ用の商品などをたくさん買い込む時期なのに、いまやその熱気をなかなか体感できなかった

海南島を訪れたとき、在来の市場にも足を運んでみた。さすがに賑わっているが、それでも熱気がいま一つ高くないような気がした。地元の高級レストランも中クラスのレストランも例年ほどの活気は見せていない。これまでの海南出張と同じようにゴルフ場のなかに設けられたホテルに泊まっていたが、それも例年ほどの賑わいはまったくなかった。

地元の人に確かめてみたら、やはり「景気が悪くなった」、「公用族が減った」という理由が多かった

● 中国ビジネスの難しさの中で 奮闘する新世代の息吹も

一方、新しい動きも感じられた

日系IT企業で重役を務めていた友人はいまや海南島地元の農業、牧畜業の大手企業で人事部長を務めている。その話しぶりから、大規模な農業、牧畜業関連事業の展開に魅力とやり甲斐を感じているようだ急速に成長する民営企業なので、人材の育成が追い付かず、秩序ある社内統制もうまくとれていないところはその新しい職場での悩みになっている

沿海部の一流大学を出て、海南島の火山村に戻って村おこしに精魂をつぎ込む30代の青年を訪ねた。南風窓、新民週刊など中国の有力メディアの記者だったその青年は、いまや農村に戻って村おこしをする模範として広く知られている。ハーバード大学などにも呼ばれて、創業を行った話をしたそうだ

彼の努力の結果、火山村で作られたライチはインターネットを通して飛ぶように売れて、村が潤った最近の新しい挑戦はライチ風味のお菓子作りだ。「日本のお菓子からいろいろとヒントを受けた」とそのきっかけを隠さずに教えてくれた

しかし、順風満帆のように見えた彼も深刻な悩みを抱えている。中国の行政単位の末端は複数の村を束ねて管轄する鎮や郷となっている。火山村が所属する鎮の鎮長は彼の成功を面白く見ていない。むしろ、自分の無能ぶりを炙り出されたという被害者意識が強まり、村おこしに励む彼を敵視している

鎮長によるいろいろな妨害を受けている青年は、「正面衝突はなるべく避けるようにする。相手の顔を立てられるところはきちんとその顔を立てるようにする。時間はこちらにある。鎮長の任期もいずれは終わり、新しい人が鎮長になるだろう。そこまで付き合っていかなければならない」と語った

年齢に似合わぬその器量の大きさに感心しながら、中国ビジネスの難しさを再認識しているところでもある

莫 邦富

ダイヤモンド・オンライン2016.04.21

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