上海株暴落→崖っぷちの現代時自動車

上海株式市場の7月8日の暴落から2日後、中国汽車工業会が今年の自動車販売台数の成長率予想を1月時点に予想した前年比7%増から3%増に下方修正した景気減速に株価下落による消費者心理の悪化が追い打ちをかけ、需要が冷え込む恐れがあるためだ

 上海株はその後、落ち着きを取り戻していたが、27日に再び8%超も急落した。市場の実体は、投資家の保有株売却や新規上場を禁じるなど中国政府の異例の株価維持策にむりやり生かさせている「ゾンビ相場」の状態

 6月12日の高値から3割超も下落し、約400兆円もの時価総額が失われた暴落の後遺症は計り知れず、投資家の売り買いを正しく株価に反映する本来の市場機能が死んだも同然の相場の先行きは、楽観できない

 中国政府が必死に厚化粧したゾンビの化けの皮がはがれて、株バブルがいよいよ崩壊へと向かえば、前年実績(6.9%増)からほぼ半分に成長率が鈍化するという中国自動車工業会の厳しい需要見通しは一段と下ぶれしかねない。世界最大の自動車市場の減速はどのメーカーにとっても大問題だが、中でも大きな痛手を負いそうなのが韓国の現代自動車だ

■中国市場が世界販売の2割強

 現代自にとって、中国市場は世界販売台数の2割強を占める最大の売り先しかも、6月23日には内陸部の主要都市、重慶に現地で5番目となる新工場を着工したばかりだ。中央日報(電子版)による韓国経済新聞の報道などによると、着工式に出席した現代自の鄭義宣(チョン・ウィソン)副会長は「(中国)西部にも拠点を確保し、名実ともに全国規模のメーカーとして成長する」と述べ、拡大戦略に自信を見せていたというが、このときは上海株の暴落など夢にも思っていなかっただろう新工場には、提携先の北京汽車集団と合計10億ドル(約1200億円)を投資。年産能力は30万台で、フル稼働する2018年には傘下の起亜自動車の工場も合わせた中国全体の年産能力は270万台に増え、最大市場でのシェア拡大の牽引(けんいん)役が期待していたがその戦略の歯車はどうも狂いそうな気配なのだ

 聯合ニュース(電子版)によると同社の6月の中国工場における販売台数は約6万台で、前年同月比30.8%減と大幅に落ち込み、傘下の起亜自動車も3万8000台で同26.5%減少した。6月の中国新車販売は前年同月比2.3%減の180万3100台と、リーマン・ショック後の2009年1月以来、ほぼ6年半ぶりに3カ月連続で前年水準を下回っており、苦戦はある程度やむを得ないだろう。だが、同じ6月にライバルの日本勢はトヨタ自動車が同41.7%増、ホンダも26.1%増と大幅に販売を伸ばしている

 実のところ、現代自の落ち込みは単に市場の減速が原因ではない。価格の安いスポーツタイプ多目的車(SUV)で競争力を増した地場メーカーや中国向け戦略車で攻勢をかける日本勢との競争が激化する中新車投入でなどで後手に回り劣勢に立たされているという状況があり、より深刻だ。すでに現地工場の一部では減産が行われているもよう。5月に9.5%だった現代・起亜の市場シェアは7%台に低下するとみられており、先行きの5%割れの観測も出ている。そこに追い打ちをかけた上海株暴落はまさに“泣きっ面に蜂”なのだ

■シェア低下 新車攻勢で後手に回る

 もちろん、苦境の現代・起亜グループも手をこまねいているわけではない。9月以降にはSUVの新型「ツーソン」とセダンの新型「K5」を投入する。ただ、ゾンビ相場の成り行きによっては、せっかくの反転攻勢策も不発となる恐れがある

 市場シェアを日本勢や中国地場メーカーに奪われている苦しい最中、保有株の値下がりで含み損を抱えた消費者が新車購入を手控えて市場の成長鈍化が強まれば、販売増の武器となるはずだった新工場は一転して過剰設備として経営の重荷になりかねない。しかも、現代自に1年先駆け、2017年にはトヨタが広州で年産10万台の新工場を稼働させるという間の悪さもあり、中国5工場体制の見直しを迫られる可能性は否定できない

当然、現代自の危機感は高まっている。韓国紙の毎日経済(電子版)によると、現代自グループの鄭夢九(チョン・モング)会長は今月13日、ソウルのグループ本社で開かれた上期の海外法人長会議で、「市場が難しいほど販売に突破口を求めなければならない」とし、「販売の第一線で最大の成果を出せるように、全社的な販売サポート体制を強化してほしい」と、げきを飛ばしたという。

 海外法人長会議は、世界各国の現代・起亜自動車の海外法人長が一堂に集まり、地域別の市場動向と販売実績、今後の戦略などを議論する同社の重要行事だが、厳しい経営環境を踏まえ、毎日経済は今回の会議について「薄氷を踏むようだ」と評した

■タイミング悪い新工場稼働

 鄭会長は昨年末、法人長会議で「ポスト800万時代」を強調し、年間820万台の販売目標を掲げて拡大戦略に打って出た。ところが、現代・起亜の今年上期の実績は、国内市場こそ57万8661台と、前年同期比で2.4%増を確保したが、成長を期待した肝心の海外市場は3.3%減の336万7406台に低迷。この結果、国内外の全体販売台数は、前年同期比で2.4%減の394万6067台にとどまり、「ポスト800万台」の夢には到底、届かないペースなのだ

 鄭会長は会議で、「多くの困難を経験してきたが、すべて乗り越えた経験がある」と強調し、「むしろこのような困難を、外部条件に揺れないように体質を改善して革新する機会にしよう」と宣言。その上で「全社員が団結して、有機的な協力体系を構築するように」と注文をつけたという

 現在の販売の落ち込みは大きいが、中央日報(電子版)は、市場調査会社のJ.Dパワーによる「2015中国販売満足度評価」で現代自動車の中国現合弁法人である北京現代が2000年以降過去最高点となる812点を記録し2年連続で1位になったと伝えており、鄭会長の言葉通り同社は難局を乗り切るかもしれない

しかし、同社が本当に全社員一丸となった協力態勢でまとまれるかは、疑問が残る。現代自の社員の年収は、なんと収益で圧倒的に勝るトヨタよりも多いというからだ。朝鮮日報(電子版)は、それぞれ現代自の韓国とトヨタの日本の従業員を基準にした2013年度の年収を比較すると、トヨタの平均約794万8000円(当時のレートで8318万ウォン)に対し、現代は約9000万ウォンと上回り、日本円で現代自が100万円以上も高いと報じた。現代は14年度の年収がさらに9700万ウォンと上昇しており、トヨタを上回ったとみられるという。

 同紙は背景として、トヨタはリーマン・ショックや米国での大量リコールなどで経営が苦しかった時期に、労働組合が賃上げを要求せず、むしろボーナスの削減などで労使一体で業績改善にあたった点に着目。対照的に営業利益が年々、減少する中でも現代自の労働組合が強気の賃上げを要求してきたことを指摘している。中国販売の不振で、その現代自労組がトヨタのような労使協調路線に簡単に転じるとは考えにくいのだ

 現代自の最近の株価はほぼ5年前の水準に逆戻りしており、多くの投資家も今はまだ反転攻勢に確信が持てず、経営の先行きを不安視している。簡単には巻き返しの展望が開けない中、おそらく現代自の海外法人長らはゾンビ相場と化した中国株バブルの行方に戦々恐々としていることだろう

参考 Sankei Biz 2015.07.28

【関連する記事】