パナマ文書→窮地に追い込まれるのは誰だ

世界中の政治家や有力者が、莫大な富を隠していたことが発覚したのを受け、5日には少なくとも2つの大陸で捜査が始まった欧州からアジアまで各国の指導者は、自分たちはむしろ犠牲者だと主張したものの、アイスランドの首相は辞任に追い込まれた

今では「パナマ文書」として知られるようになった、パナマの小さな法律事務所から流出した数百万以上の文書は、世間の激しい怒りを誘った。戦争や人道危機から注意をそらし、富裕層が秘密のダミー会社やオフショアの脱税手段を使って資産隠しを行っていた巧妙な手法に注目が集まった

世界中に広がる影響

文書の影響は瞬く間に世界中に広がった。アイスランドでは、グンロイグソン首相が辞任要求を突きつけられた。首相と裕福な夫人が英領バージン諸島に会社を設立していた事実を文書に暴露されたことで、5日に副党首に後任を頼むことになってしまった。

英国では政府にキャメロン首相の取り調べを求める声と、財務の透明性を主張する首相の姿勢に批判の声が高まっている。流出文書には、キャメロン首相の親族がオフショアの税金回避地に財産を隠していたことが記されていたからだ

人口のおよそ20%が1日1.25ドル以下で生活しているパキスタンではシャリーフ首相が辞任を求める野党の声を腹立たしげにはねつけて自らの財産は合法的に獲得したものだと主張し、政敵に対して不正行為を証明するよう求めた首相の娘は批判的な人々に向けて、「証明せよ、さもなくば謝罪せよ」とツイッターで発信した

フランス、ドイツ、オーストリア、および韓国の当局者らはマネーローンダリングから脱税にいたる不正行為の疑いに関する捜査を開始すると発表したフランスのサパン財務相は国会で、政府は脱税者の資金逃避先のブラックリストに再びパナマを加えた、と発言した

流出文書はパナマの法律事務所モサック・フォンセカの21万5000近い法人と1万4153人の顧客の情報を網羅している25カ国語にわたり世界の100の報道機関で共有されたこの文書には政治家、著名人、スポーツ選手、そしてロシアのプーチン大統領や中国の政治局員といった世界で最も影響力のある人々や、その親族、友人が含まれている

文書によって特定された人物に習近平国家主席の義兄が含まれていた中国では、特定された人物は事実無根の攻撃を受けたと政府が激しく非難中国の検閲当局はパナマ文書に関する記事をネットで検索できないようにした

カーテンで隠されていた事実

一方、ロシアでは文書はプーチン大統領に対する根も葉もない攻撃だとして、当局が内容を否定検事総長事務所は5日、オフショア会社の恩恵を受けていると報告されたロシアの要人に関する調査を行うと発表した

パナマ文書の波紋は西アフリカのダイアモンド王から韓国の元大統領、南米の有名サッカー選手に至るまで、大陸を越えて拡大した反汚職で有名な権利擁護団体、トランスペアレンシー・インターナショナルのチリ支部長でさえ、バハマのオフショア会社の代理人だと流出文書によって指摘されたのを受け、辞任に追い込まれた

パナマ文書には、これまでのところ米国の要人は含まれていないし、名指しされた人物が犯罪に関与しているとの証拠が示されているわけでもない。しかし、発覚した事実について、世界中で怒りや非難が巻き起こっている

「汚職は民であれ官であれ、隠すことによってのみ可能になる」とニューヨークに拠点を置く国際的法律事務所ドーシー・アンド・ホイットニーの共同経営者で、元連邦検事のジョン・マルティ氏は話す。その上で今回の発覚は「カーテンで隠されていた秘密の存在を公開するようなものだ」と語る

米国のオバマ大統領は、流出文書について直接コメントはしていないものの、税金逃れは「非常に大きな問題」であり、対象額は数兆ドルに上るだろう、との認識を示した

同大統領は「この多くが合法で、違法ではない」としながらも、「米国やほかの国々が、これらの抜け穴をふさいで模範を示して指導しない限り、多くの場合は何が起こっているのか突き止められても、それを阻止することはできない」と述べた

世界の富の8%が租税回避地にある

「The Hidden Wealth of Nations(失われた国家の富)」の著者であるカリフォルニア大学バークレー校のガブリエル・ズックマン教授は、ナショナル・パブリック・ラジオ (NPR)の取材に応じ、今回明らかになったのは、世間の厳しい目を逃れた富のほんの一部に過ぎないと語った

「租税回避地ごとに法律事務所があることを考えると、この程度は序の口だとわかるだろう」とズックマン教授は話す。同教授によれば、世界の富の8%が租税回避地にある計算になる。「すなわち、7.6兆円に上る巨額の富が租税回避地にあるということだ

一方、アイスランドのグンロイグソン首相の辞任がいまだに8年前の世界的金融危機から回復途上の、人口32万3000人の小さな島国にどう影響を及ぼすかは不明だ

グンロイグソン氏は自身と裕福なパートナーが、モサック・フォンセカを通じて2007年に英領バージン諸島に会社を設立した事実が発覚した後も、政権を維持すると主張していた

パナマ文書は彼が保有する会社の半分を、2009年12月31日にパートナーに1ドルで売却したことを示していた。これは、新法の施行により、国会議員であるグンロイグソン氏が利益相反に当たるとして所有権を申告しなければならなくなる前日のことだった

グンロイグソン氏は流出文書には情報が含まれていないと主張し、彼と妻のアナ・シーグルレイグ・ポルスドッテル氏が、資産隠しも税金逃れもしていないと付け加えた

しかし、彼らの会社であるウィントリス社は、2008年の金融崩壊で数百万ドルを失って破たんした同国の3つの銀行に約420万ドルの請求を行っている2013年の首相就任以来、グンロイグソン氏は銀行の債務処理に関与していたため、利益相反で告発された

租税回避地としての英国領

流出文書について英国でも論議が起こっている租税回避地として英国の統治領が並はずれた役割を果たしていることを文書が示したからだ

野党労働党のジェレミー・コービン党首は、パナマでの事実発覚に関係するすべての英国人(もちろんキャメロン首相の親族も含む)の税務に関する独自調査を行うよう要求合わせて政府に対し、海外の領土や保護領を必要に応じて英国の税法に従わせることができるようにすべきだと要請した

政府は脱税に関して、煮え切らない態度をとるのをやめる必要がある」と、コービン党首は話した

英国内で怒りの的になっているのは、キャメロン首相の亡父で、株式仲買人や投資マネージャーをしていたイアン・キャメロン氏だ。文書によると同氏は、パナマの法律事務所を利用して、英領バージン諸島を本拠地とする会社を設立した

違法な活動を示すものはないが、海外の投資ファンドは英国に税金を納めていない労働党は、キャメロン首相がオフショア・ファンドに関心を持っていたかについて回答するよう要求したが、首相はこれを否定。このため労働党は、首相自身の納税申告書の公開を求めた

英国で経済的不平等が大きな政治的問題になりつつある中、しかもキャメロン政権が貧困層への福祉支給を減額しようとしているこのタイミングで、首相の恵まれた子ども時代と個人的な富の存在が示されたことは、市民の怒りに油を注いでいる

租税回避地を厳しく取り締まる世界的な取り組みで主導権を主張していたキャメロン首相にとってさらに恥ずかしいのは流出した文書では英国の自治領、特にバージン諸島が、モサック・フォンセカが扱った企業にとって「お気に入りの場所」であると証明されたことだ

キャメロン一族とパナマの関係

英国では4日以降、流出文書に関する政治的温度が上昇し続けている。この日、キャメロン首相の親族が現在もオフショアで金銭を保有しているかと質問された首相の公式報道官は「個人的な問題」だと説明した。キャメロン首相は5日になって、この件をようやく否定した

得られた利息を当局に申告する場合には、金銭をオフショアで保有することは違法ではない。首相は納税申告書の公開要求について「非常に楽観している」と発言したにもかかわらず、今だに公開していない

キャメロン首相の親族とパナマとの関連を指摘する報道が最初に出たのは、2012年だった。イアン・キャメロン氏が1982年にパナマに設立されたファンドの重役を務めていたことが明らかになったのだ。このファンドはスコットランドにあるキャメロン一族の邸宅にちなんで、ブレアモア・ホー ルディングスと名付けられていた

今回流出した文書では、所有者の氏名を特定しない無記名株式を使って、ブレアモア・ホールディングスへ投資していた者の名を隠していたことが明らかになった

キャメロン首相は「株は保有していないし、オフショア信託やオフショア・ファンドといったものは一切持っていない」と主張。その後、首相だけでなく、その夫人やいずれの子供たちも「いかなるオフショア・ファンド」の恩恵も受けていない、と発言した

(執筆:Steven Erlanger記者、Stephen Castle記者、Rick Gladstone記者)

© 2016 New York Times News Service

東洋経済オンライン  2016.04.07

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