ハーバード大が世紀の大発見→(2)

不老長寿が、とうとう実現できる! そんな予感をさせる研究成果が挙がり始めた。どんどん進む「老化の原因」の特定で、「加齢」はいつしか「病気」の一つに分類されるという

■60歳の体が30歳になる

今までは卵子の老化は止められないといわれていましたが、これからは逆行させることができますまず女性から卵子を数個取ります。幹細胞から、細胞のエネルギー源であるミトコンドリアを取り出し、それを精子と一緒に卵子に注入します。そうするとはるかに健康な受精卵ができると考えています。これはカナダ、中東、イギリスなど多くの国・地域で行われており、日本でも始まっています

老女から古い卵子を取り出して、それを若返らせることもできます。そうするとその卵子と精子で子供をつくることができます。さらにDNAを改変することができれば、疾患がゼロの受精卵をつくることができます。これまで空想小説の世界だと考えられてきたことが現実になる。

今研究しているもうひとつの分子は非常に新しい分子で、レスベラトロールよりも寿命を延ばす能力が高いものですNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドの略で、サーチュイン遺伝子を活性化させる化学物質)という物質のレベルを上げる役割をします。この研究は現在、今井眞一郎氏(現ワシントン大学セントルイス校)と協力して行っています

NADは老化とともに減少します私は今45歳ですが、NADは若いときの半分になっています。ですから、NADのレベルを上げると若返ると考えますが、今井氏も同じ考えです。我々はMetrobiotechというベンチャー企業を立ち上げ、マウスですでに若返りに成功しています。臨床試験も始まる予定です

NADのレベルを上げると体全体が若返りますこれをマウスに投与すると、人間で言えば60歳の体が30歳の体になりますクレイジーに聞こえますが、最も権威のある科学誌の一つCellに掲載されました

さらにこのラボで研究しているのはバイオインフォマティクス(生命情報科学。遺伝子やタンパク質のビッグデータをコンピュータにより分析する研究分野)です

ヒトとサルとの比較から、すでにいくつかの新しい遺伝子を発見しています。私のラボには20人いますが、シドニーには10人、さきほど言ったベンチャー企業では何百人もの人が研究しています。ですから、毎日何かが起きています。

若返りをするには何か代償を払わなければならないと考える人もいますが、それはないと思います。未だ明らかにされていないことが多いので今の段階では、完全に若返るということはありません。ですが、体がまるで若返ったように行動させるスイッチが複数見つかっていますし、将来もっと完全な若返りができるようになると思います筋肉の若返りについては1年間研究しましたが、筋肉の老化を完全に逆行させることができました。それはそれほど難しいことではありません

■どっちのマウスが若く見えるか

マウスでは老化を早めたり、遅らせたりすることができます。このマウス(写真を参照)を見てください。AとBでどちらが若いと思いますか?

実は同年齢です。DNAはまったく同じですが、Aのマウスは老化を早めたのです。どの遺伝子のスイッチをオンにして、どれをオフにしたら老化を早めることができるかわかっています。現在は、老化を逆行させる、つまり若返らせようとしているところです

元々老化はDNAの損傷が原因であると考えられていますが、このマウスに起こっていることはDNAに損傷を受けたことによるものではないと我々は考えています我々が考える老化の原因は、「細胞がDNAをどう読むか」が変化してしまうことですいわゆるエピジェネティクス(環境などの条件が変わることで、様々な遺伝子のオン・オフが調節されること)です

例えば、自分たちが若いときに、完璧なコックさん(=DNAを正しく読む細胞)の料理をおいしく食べます。それが年をとるにつれて、そのコックさんも年をとり、同じようにつくることができなくなります。そうすると次のコックさん(=代わりに生まれた細胞)がつくることになりますが、完璧なコックさんが書き残したレシピ(=老化しないDNAの読み方)に従えば、同じようにつくることができます。細胞がDNAを正しく読めば、細胞が若返るということです

 ■寿命は簡単に20年延びる

10年前にはマウスを若返らせることは難しかったのですが、今は簡単です。今若返りのために使うことができる分子はかなりあります。例えばレスベラトロールやNAD以外では、ラパマイシン、メトホルミン、ニコチンアミドモノヌクレオチドなど、老化を遅らせる分子はたくさんあります今それがヒトにも効果があることを証明したいと思っています。またアルツハイマー病や二型糖尿病は、老化と深く結びついています30歳とか40歳になったときに、こういう分子を注入すると老化だけでなく病気に対しても体が防衛してくれます7つのサーチュイン遺伝子のスイッチをオンにすると、老化を遅らせたり、アルツハイマー病の発症を遅らせたりすることができることは動物では証明できています。今それがヒトに効果があるかどうかテストしなければなりません。私の父親は75歳ですが、先ほどの分子を注入しています。非常に健康で、強いです。私よりも健康です(笑)。自分の体を使って人体実験をするのはオーストラリアの伝統です。ノーベル賞を受賞したバリー・マーシャル医師は、胃で悪さをするバクテリア(ピロリ菌)を発見したときに、自分の体にはそのバクテリアがいなかったので、自らバクテリアを飲み、わざわざ感染して、抗生物質を飲んで治療し、研究材料としました。同じということではありませんが、私の父親も12年も前に自ら進んで実験を引き受けてくれました。オーストラリア人は勇気があるというか、クレイジーなところがありますね(笑)。

私は、老化には2つのステージがあると考えていますステージ1は80歳までの期間です。ヒトは中年を過ぎると、細胞の核とミトコンドリアにあるDNAが正しいコミュニケーションを取れなくなっていることがわかっていますそれが原因でDNAの読みが変わってしまい、老化が進むのです。これについては、我々のアプローチによって若返りが可能と考えています。もっと年をとるとステージ2となり、ミトコンドリアDNAの突然変異が起きたり、不完全なかたちのタンパク質が増えたり、寿命と関係するテロメア(細胞が生まれ変わるたびに減少していく遺伝子)にもいろいろなことが起こり、後戻りは難しくなります

私が力を注ぎたいのは、80歳や90歳になるもっと前に、ヒトを若返らせることですあまりにも年をとってから若返らせようとするのは、中年のときと比べるとはるかに難しいのです現段階の技術では不老不死にはたどり着けませんが、寿命は簡単に20年くらい延びるでしょう

プレジデント 2016.03.13
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