ニュートリノ質量→何がスゴイのか?

東京大宇宙線研究所長の梶田隆章さんが、ノーベル物理学賞を受賞しました受賞の決め手なったのは、1998年に「ニュートリノ」に質量があることを実証したこと。それが、どのようにして実証されたのか。サイエンス・アイ新書『マンガでわかる超ひも理論』から、解き明かしていきましょう。

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物理学の常識を覆した発見!

30年間、間違いのなかった素粒子の「標準理論」

 素粒子の世界を探求し、そのふるまいを説明するために、たくさんの科学者が知恵を絞り、それまでの理論を積み重ねて誕生したのが素粒子の「標準模型」だ。

標準模型がほぼできあがり、物理学者の間に広まってきたのが1970年代から。それから30年間、たくさん行われた素粒子の実験は、ことごとく標準模型の予言どおりの結果を示してきた。

これまで行われた素粒子関係の実験結果を集めると、700ページにもなる本ができあがる。1998年までは、その本に記されているデータはすべて標準模型と一致していた

 その標準模型に待ったをかけたのが、1998年に発表されたニュートリノの重さだった。この発表は世界を駆け巡り、『ニューヨークタイムズ』の1面を飾るほどだった。なぜ、ニュートリノに重さがあることがそんなに問題だったのだろうかそれは、ニュートリノに重さがないことが標準模型の根幹を支える前提となっていたからである

素粒子は目には見えないが、この宇宙の中を飛び交っている。もちろん、私たちの周りにも、目には見えないがたくさんの素粒子が飛んでいる。この飛び方をよく見てみると、地球のように自転しながら飛んでいたその素粒子の自転は右回りと左回りの両方見られるはずなのに、ニュートリノの場合は片方しか見ることができなかった。これはおかしいということで考えられたのが、ニュートリノは光速で動いているから、片方しか見ることができないという理論だった素粒子の場合少しでも重さがあると光速で動くことができないので、光速で動くニュートリノは重さがゼロでなければならなかったのだ

ニュートリノの重さを発見したスーパーカミオカンデ

 ニュートリノの重さを発見したのは岐阜県の神岡鉱山につくられたスーパーカミオカンデだったこの装置は、1987年に超新星爆発で発生したニュートリノをとらえることに成功したカミオカンデの後継機である貯水容量もカミオカンデの3000トンから5万トンへと約17倍も増え、観測精度を上げている

標準模型では、ニュートリノには重さがないということになっていたが、本当にそうなのかと確かめる試みはこれまでも数多く行われていた。ニュートリノは超新星以外にも、太陽や大気、地球の内部など、いろいろなところで発生しているが、弱い力だけとしか反応しないので、とらえるのが難しかった

 スーパーカミオカンデの実験では大気で発生したニュートリノを観測していたところ北半球で発生した空からやってくるニュートリノと、南半球で発生して地下を突き抜けてくるニュートリノの量を比べたところ地下からくるニュートリノのほうが量が少ないことがわかった

 ニュートリノは地球の存在には影響を受けないはずである。それなら、地球があろうがなかろうが同じ量やってこないといけないはずなのになぜこのような違いが起きるのだろうかこの現象をもっとよく調べてみたところ、ニュートリノの種類が変化していたのだ。この実験では、3種類あるニュートリノのうちミューニュートリノを観測しようとしていた

しかもこのニュートリノは、発生してからスーパーカミオカンデに飛んでくるまでの間に、タウニュートリノに変わってはミューニュートリノに戻るニュートリノ振動というものを繰り返していたそれで観測したときには、ちょうど半分くらいしかミューニュートリノが観測できなかったのだこのニュートリノ振動の観測によって、ニュートリノに重さがあることがわかってきた

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重さがある=光速ではない」ことがポイント

ニュートリノの変化が重さを示すカギ

 ここで問題になってくるのは、どうしてニュートリノ振動があることで、ニュートリノに重さがあることがわかるのかということであるニュートリノに重さがないことを証明するには、ニュートリノが光速で動くことを証明すればよかった

ここでアインシュタインの相対性理論を思いだしてみよう。相対性理論によるとこの宇宙でいちばん速いのは光で、光より速いものは存在しないこれが光速不変の法則だ

相対性理論のなかでは、光速に近くなればなるほど、その速さで飛んでいるものはほかのものよりも時間の進み方がゆっくりになっていく。そして、完全に光速になると時間を感じなくなるニュートリノが時間を感じないのであれば、ニュートリノ振動が起こることがおかしいということになる。たとえば、人が時間を感じるのはお腹がへったり、体が大きくなったり、老化をしたりと、なにかしら変化があるからだ自分自身やその周りでなにも変化が起きなければ時間の経過を知る術はない

それはニュートリノも同じで、ニュートリノが時間を感じていなければミューニュートリノからタウニュートリノに変化することはないのだそれでニュートリノの種類が変化するニュートリノ振動が観測されたことは、ニュートリノが光速よりも少し遅い速度で動いている証拠となる。

 そしてニュートリノが光速で動いていないということは、ほんの少しでも重さをもっているという結論になるのだスーパーカミオカンデでの発見後、人工的につくったニュートリノを使った実験でもニュートリノが重さをもっていることが99.99%以上の確率で 示された30年間破られることのなかった標準理論は、このようにして倒されていった

参考 SBクリエイティブ online 2015.10.07

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