セックスは長寿の秘訣

「性は生まれてから死ぬまで、生きるエネルギーなのです」と北村邦夫医師は語る。長寿のためには、恋愛とスキンシップは欠かせない。ラブホテル、お見合いパーティー、風俗のシニア向け最前線を追った。

■男女が出会う絶好の機会は同窓会

「つき合っている女性は同じ年の66歳。高校のときの同期生です。彼女は男子生徒に人気があって、僕は憧れていても彼女を遠くから眺めているだけでした。2年前の同窓会で思い切って声をかけ、今ではホテルに一緒に行く関係に発展しました」

すでに気心が知れている相手が集う同窓会は、男女が知り合う絶好の機会だと話すのは、機械メーカーの元部長だった和田英治(仮名)氏だ。

「大学を卒業して会社勤めを42年間してきましたが、体裁をつくろい、世間に気ばかり使って日々を送る生活でした。ありのままの自分にもどって笑ったりはしゃいだりできる昔の仲間はありがたかった。その流れで彼女と次に会う約束をし、食事に行って、しかも彼女から手をつないでくる。嬉しかったですね」

こんな幸せ、人生にあるとは思わなかった、と顔をほころばせる和田氏は、妻と11年前に死別50代半ばで閑職になり、仕事が終わると毎晩、焼酎を飲む日々だった交際範囲も狭くなり、寂しくて、心の穴を埋めるものを求めて同窓会に出席。そして“金星”を手にしたのだ

和田氏の彼女は夫と40代半ばで生き別れたバツイチ。和田氏は結婚を考えているが、彼女との楽しみの逢瀬は、同居家族の目を気にして、ラブホテルを利用しているという

「娘夫婦が押しかけてきて実家で同居を始めたんです。娘は子育て真っ最中で家にいますから、彼女を家に呼んでセックスするわけにはいきません。娘家族と別居したい気持ちです。今は、リーズナブルで気軽に使えるラブホテルを利用しています

退職して時間に余裕のある和田氏は、平日の昼間にラブホテルを利用している。ホテル街の路地に入ると学生や会社員らしき男女に交じって自分と同年代の熟年カップルをよく目にするのには驚いたという

■ラブホテルにシニア割、バリアフリー、懐メロ

実際、熟年のラブホテルの利用は増えているのだろうか。「『えっ』と思うぐらい高齢のお客様が増えています。年金の受給日にホテルが混むことでもわかります」と話すのは、全国に45のラブホテルを経営するレステイ社長の宮原眞氏だ。

れだけに熟年の利用者向けのサービスには知恵をしぼっている。まずは料金。カップルのどちらかが60歳以上であれば、500円のシニア割引が受けられる。学割も導入しているが、圧倒的に利用者はシニア割のほうが多いという。そして最も力を入れているのが設備面だ。

「ホテル内の階段には手すりをつけ、テーブルの角は丸くしてケガのないよう安全面に考慮しています。部屋の床には高級感を出すために段差がありましたが、転倒防止のためにバリアフリー化しました」

部屋のエアコンのリモコンの表示は文字を大きくし、テレビのリモコンは使い勝手を考えてシンプルなタイプ。拡大ルーペも備え、洋画のソフトは目に負担の少ない吹き替え版を用意し、カラオケは懐メロの曲数を増やしているという。

少子化が進む日本だけに熟年に至れり尽くせりのサービスぶりである

心待ちにする楽しい逢瀬の機会がない熟年の独身者にとって、中高年専門のお見合いパーティーは絶好の「出会いの場」といえよう

■最近は女性が積極的!  お見合いパーティーの今

1月下旬、東京・渋谷のホテルのバンケットルーム。煌びやかな照明の下、約160人の男女が丸テーブルに分かれて座る。男性の中心は60代から70代。女性は50代から60代。スーツや落ち着いたジャケットを着込む男性が目立つ。女性は真っ赤なスーツやピンクのワンピースにジャケットなど、それぞれが勝負服に身を包んでいるのだろう。

午後1時、参加者の代表がマイクを握り、「健康と、これからの幸せに乾杯! 」。ほかの参加者が一斉にグラスを掲げ、中高年限定の婚活パーティーが始まった。まずは昼食タイム。その後、時間になると男性が時計回りにテーブルを1つずつ移動し歓談。全席の席替えが終わり、次は呼び出しコーナー。心にとめ、もう少し話をしてみたい人を呼び出し、ロビーでじっくりと話す時間だ。

この中高年のお見合いパーティーを主催するのは三幸倶楽部。同社はこうしたパーティーのほかに、カラオケやダンス、ハイキングなど、共通の趣味を通じて交際のきっかけを提供している。入会資格は男性は40歳以上、女性は35歳以上だ。

三幸倶楽部代表の越川玄氏が語る。「サークル的な恋人探し、パートナー探しの会です。ここ2、3年で会員は60代半ばの団塊世代が急増しました。男性の最年長は92歳です。女性の平均は50代後半。86歳の女性は、カラオケやダンスにも顔をだし、元気いっぱいです

最近は女性が積極的になり、パーティーが終わると、男性とお茶やお酒を飲みにいく人が増えたという

中高年の婚活を支援する太陽の会・本部会長の斉藤尚正氏は、30年近く集団見合いの世話をしてきた経験から入会する男女の目的をこう話す。「結婚相手を求めるのは孤独感や老後の生活不安、そして、性の問題があります。男性の7~8割はセックスにこだわりますが、女性はセックス抜きの交際を望む人も多い。女性はカップルになると入会したときと比べてシワが少なくなって、きれいになっていくのがわかります死ぬまで男と女なんです」。

1月中旬の太陽の会のお見合いパーティーに参加した83歳の男性はパートナーが欲しい胸の内を明かす。

体が丈夫であれば年を取っても異性を求めますし、寒いときには人肌が恋しくなります。女性とつき合いたいという気持ちが強いから、新宿まで1時間30分もかけて出てきます。3つ年上の知り合いに女性を求めて韓国へ旅行した人がいますよ」

それでは女性はどうなのか。三幸倶楽部のパーティーに参加していた60代の女性はこう話す。

子どもや孫がいて楽しい時間を送っていても、心にぽかーんとあいた穴は埋まりませんそれを埋めてくれる異性を求める気持ちは、80歳でも変わらないと思います

夫婦問題研究家でバツイチ・再婚相談所のカラットクラブを主宰する岡野あつこ氏は、熟年女性が結婚相談所を活用する目的は「将来の生活の安定と愛情のある結婚」という。

60代前半くらいまでの女性には、まだ青春を楽しみたいという思いの人もいます。女友達と割り勘で食事をするよりは男の人にご馳走になったり、自分の色っぽさを認められて女として磨かれるのを楽しむところがありますね。もちろん気の合う人とセックスができたら、『まだ私も女だわ』と実感できるのでしょう」

男性の熟年事情について岡野氏はどう見ているのか。

「仕事やパートナー、子どもなど多くのものを獲得してきた若い頃と異なり、男性は60歳を過ぎて仕事を失い、自分の人生と向き合うわけです。子どもの独立や配偶者との死別など『喪失期』に入りますが、企業戦士として生きてきて枯れて終わりたくない、もう一度、青春を取り戻したいと思う人も出てきます女性と知り合い『おれはまだ大丈夫。女を喜ばせられるんだ』と自信をもてることが嬉しいのでしょう

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既婚者の最近1年間の自慰頻度、既婚者の最近1年間のセックス頻度

 異性に心がときめき、セックスにまで結びつけば、積極的に生きる意欲が湧き、生活に張りが出てくるのも事実。「性は若者や子づくり世代の特権だと考えがちですが、性は生まれてから死ぬまで、人間にとってかけがえのないもの、生きるエネルギーなのです性は生のマグマともいえるでしょう」と話すのは日本家族計画協会理事長で同クリニック所長の北村邦夫氏だ。

「セックスには3つの側面があります。1つ目は生殖。子どもをつくるための性2つ目は連帯で、触れ合いを大事にする性3つ目が快楽です男性や閉経を迎えて妊娠に関わらなくなった女性の性行為には、連帯や快楽が非常に強く表れます

そして挿入できない時期がきても「愛することは触れ合うこと」というのを忘れないことが大事だという

ラブホルモンとも呼ばれるオキシトシンは、セックスのときだけでなく、触れ合いを通じて分泌量が高まります。その結果、快楽が得られるだけではなく、ストレスからも解放されます異性を愛して肌を触れ合うことは、高齢者の生き残ろうとする力を高めるのです

“人間と性”教育研究所副所長の岩淵成子氏も「熟年は性欲解消のセックスから互いの存在を確認するセックスに変えるときです」と語る。

熟年のセックスを楽しむには、挿入にこだわる必要はありません。妊娠の不安はありませんから勃起時間の長短など関係なく、自分と相手が心と身体を一体化でき、性の喜びを表現し合うセックスを心がけるべきです。それには女性の身体を把握し、互いに思いやるセクシュアルなコミュニケーションが重要でしょう

ところでシルバーエージの性の実態はどうなのか。北村氏がジェクスの依頼で行った「ジャパン・セックス・サーベイ」の1年間の性行動を調査した2012年版で見てみよう。過去1年間にマスターベーションをした経験がある人は、50代では84.5%、60代でも65.6%があると回答女性は50代で53.2%、60代で32.1%だ

性交経験についてはどうか。40代以上の男女ともに90%を超えているが、「この1年間」に特定しても男性では50代で66.7%、60代で55.0%。女性は各49.7%、27.6%になる。同年代の女性に比べて60代男性の性欲の強さが目立っている。既婚者の自慰、性交頻度については表の日本性科学会のデータを見てもらいたい。

■ゆったり遊べるシニア向け風俗最前線

ところで、異性との出会いもなく、悶々と性欲をうちに秘める男性の性的発散の場である風俗業界でも数年前から熟年向け風俗店が続々と開店し、繁盛しているという。「早朝から営業している格安ソープランドでは、午前中の待合室はまるで病院の待合室のよう」と話すのは風俗情報誌「俺の旅」編集長の生駒明氏だ

「シニア向けの風俗産業は一大マーケットとして成熟期を迎えていますソープは年金の支給日から4~5日は特に混雑し、“吉原年金族”といわれるくらいです。ネットには『高齢者専門風俗案内所』が開設され、ソープ、デリヘル、性感マッサージなどの店舗が全国規模で紹介されています。また高級化したり、『60以上限定』と客層を絞ったりシニア向けに割引サービスを設けるなどの集客努力をしています

シルバー向け店舗は、ゆったり遊べるようプレーのコースを長くしたシルバーコースを設定したり高齢者相手でも楽しく会話をこなせる30代くらいの熟女が多く所属しているのが特徴だという。あるデリヘル型エステ店では、自宅へも出張して、足の悪いシニアなど障害のある人にもサービスを提供している

“真実の愛”を手に入れるのは難しくても、人肌が恋しいシニアには「ひとときのやすらぎ」に違いない

人間は生きものその生きものとしてのバイタリティーがあればこそ恋愛もでき、セックスもできるスキンシップによって安心感を得られるのはQOL(生活の質)においてかけがえのない重要な要素で、「生きている」という生存認識がアンチエージングにもつながっている

参考 プレジデント 2015.10.24

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