サムスン→傲慢と過信で内部崩壊の兆候

なぜ日本が凋落したのか、韓国も日本と同じ道をたどるのか、日本の復活はあるか、ということに大きな関心を持っていた

日本の世界シェアは低下し存在感は薄れる一方だが、そのポテンシャルは高いと、今でも投資機関は評価しているのである

本稿では、筆者がどのような講演を行い、それに対して投資機関がどのような反応を示したかを紹介したい。

●世界半導体産業の展望

講演でまず筆者は、50年に世界半導体市場が10年の2.5倍の7500億ドルになるという予測を示した、その根拠は次の通りである。
(1)過去の30年のデータから、先進国および新興国では1年間に1人当たり、それぞれ150ドルおよび75ドルの半導体を消費していると推定できる。
(2)10年から50年にかけて、先進国人口は10億人から30億人に、新興国人口は20億人から40億人に増えると予測されている
(3)したがって、50年の世界半導体市場は、30億人×150ドル+40億人×75ドル=7500億ドルになると計算できる。

つまり、世界半導体市場は数年単位でみればミクロな乱高下はあるが、40年の長期展望では確実に成長する産業であるといえるのだ。この予測に、多くの投資家たちが唸った。これまでに、上記のような大胆な仮定を設けた上で論理的に計算した長期展望を目にしたことがなかったからである。

●なぜ日本半導体は凋落したのか?

世界の半導体市場は成長しているのに、なぜ日本の半導体業界は凋落し続けているのか。かつては半導体メモリDRAMで80%、半導体全体でも50%の世界シェアを占めていたにもかかわらず、なぜDRAMから撤退し、シェアが低下し続けているのか。東芝のNANDフラッシュメモリのように健闘している分野もあるが、「日本の極度の不振」にアジアの投資機関は最も大きな関心を持っていた。
日本は1980年代にメインフレーム(大型汎用コンピュータ)用に25年保証の高品質DRAMを製造することによって世界シェア1位となったこの時、日本企業には品質の極限を追求する技術文化が深く浸透した。そのような時、1990年代にコンピュータ業界がメインフレームからPCへパラダイムシフトした。にもかかわらず、相変わらず日本企業は高価な25年保証のDRAMをつくり続けてしまったその結果、「安価に大量生産」した韓国企業にコスト競争で完敗した。つまり、典型的な「イノベーションのジレンマ」が起きたのだ高品質病はDRAM撤退後も治らず、それゆえ12年にエルピーダは倒産し、ルネサス エレクトロニクスは産業革新機構等に買収され、実質的に国有化された

この解説に、ほとんどの投資家が驚きの声を上げた。そして「日本半導体の経営者はパラダイムシフトを知らなかったのか?」「開発や製造現場はどうしていたのか?」「倒産したエルピーダも高品質病だったのか?」と次々と質問を浴びせてきた。

筆者が以下のように回答すると、またも投資家たちは驚きを隠せない様子をみせた。

日本は、パラダイムシフトも、韓国メーカーの躍進も知っていたしかし、品質をダウングレードすることができなかった25年保証の高品質DRAMでの成功体験と、技術では世界一という過信が変革の妨げになった。日本にとっては、そこそこの品質のDRAMを安価に製造することは簡単ではなく、だからこそ、それが破壊的技術となって日本を凋落させた」

●韓国は日本と同じ道をたどるのか?

メインフレームからPCへのパラダイムシフトに乗じてDRAM世界シェア1位になった韓国が今後どうなるのかは、投資家にとって重大な関心事だった現在、韓国の半導体メーカーはうまくやっている。例えばサムスン電子は、世界中に5000人にも上る現地マーケッターを配置し、情報収集している。これが奏功してPCからスマートフォン(スマホ)へのパラダイムシフトにも見事に適応し、GALAXYは出荷台数で米アップルのiPhoneを大きく上回り、同社の稼ぎ頭となった

しかし筆者は、順風満帆のサムスン電子に対して、2つの懸念材料があることを指摘した。

 ひとつは、サムスン電子が「日本にはもう学ぶものなどない」と言い始めていることだ。日本をDRAM撤退に追い込み、東芝が発明したNANDフラッシュで世界シェア1位を奪い、薄型テレビでもスマホでもシェア1位となったサムスン電子にとって、周回遅れの日本は取るに足らない存在に見えるからだろう

しかし、歴史をひもとけば、国も産業も企業も、外敵に攻め込まれて崩壊するのではなく、内部から崩壊していくのである日本の凋落も、低価格DRAMで韓国勢に攻め込まれたことより、「日本の技術は世界一」とうぬぼれ、自己改革ができなかったことに大きな原因がある

サムスン電子が「日本に学ぶべきものはない」と傲慢な姿勢になっているとすれば、かなり危険な兆候だ

もうひとつの懸念材料は、サムスン電子の絶対的なオーナー経営者であるイ・ゴンヒ会長が、昨年5月初旬に急性心筋梗塞で入院したことであるイ会長は87年にサムスングループの会長に就任し、以降27年間にわたってサムスンのトップに君臨し続けてきた特にイ会長の専権事項とされる人事については、信賞必罰を徹底しており、成果を出せない幹部には解任など非情な判断が下される。幹部の定期人事は12月上旬にあるため、元幹部は「11月になるといまでも胸が締め付けられるような緊張感を覚える」と話す。

もしも100個の高性能プロセッサを必要とする自動運転車が20年に実現すれば、予想出荷台数は1億台で、100億個の高性能プロセッサ市場が新たに創出されることになる。プロセッサ1個100ドルと仮定して、1兆ドルの巨大市場が出現する。

では、その自動運転車用高性能プロセッサを制するのは誰なのか? 現在、車載半導体ではルネサスが世界シェア1位を占めている。その背景には、トヨタ自動車など世界的に競争力が高い日本の自動車メーカーの存在がある。ルネサスは日本の自動車メーカーの下僕的な存在ではあるが、継続的な取引実績があるのは紛れもない事実だ。また、気温-40~200℃、湿度95%、50Gの振動で20年間正常に動作する極めて高い信頼性が要求される車載半導体においては、日本の凋落を招いた過剰品質の企業文化が、逆に競争力となる

 自動運転車の時代になれば、超高品質への要求は、より高度化する公算が高い。つまり、ルネサスには自動運転車の時代の超高品質車載半導体でも、世界シェア1位を守り続ける可能性がある。これが、私が考えるルネサス再生のシナリオだ。このシナリオに投資家たちは驚く一方で、経営状態が悪化しているルネサスに、そんな超高品質でパワフルなプロセッサをつくることができるのか懐疑的でもあった。しかし、筆者が「20年までに、ルネサスはトヨタかデンソーに買収されているかもしれない。自動運転車のシステム設計はトヨタやデンソーに任せ、ルネサスは超高品質半導体の製造に徹すればよい」と説明すると、多くが納得したようだった。

●投資機関への講演を終えて

 移動日と休養日1日を除けば、2日間で合計6回もの講演を行う強行軍だった。しかし、香港とシンガポールの著名な投資機関が日本をどう見ているかがわかったことは大きな収穫だった。

 日本半導体の世界シェアは低下し、その存在感が薄れているのは事実だが、投資機関は、日本のポテンシャルを高く評価していた。だからこそ、「日本の復活はあるのか?」ということに大きな関心を持っていたのである。筆者は彼らに復活の可能性の一つを示した。これが「湯之上の妄想」に終わることなく、実現することを願わずにおれない。

参考 Business J0unrl 2015.01.16

 

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