インテル入っている→PCからIoTへ

毎年年始に米ネバダ州ラスベガスで開催される世界最大の家電見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」。開催前夜に行われる基調講演は、かつて米Microsoftのビル・ゲイツ氏によるスピーチが定番だった伝統のステージだ。CES 2016では米Intelのブライアン・クルザニッチCEOがそのステージに立った。同氏による基調講演は、2014年のCESから数えて3回目となる。

【写真で解説:生活のさまざまなシーンに入り込むIntel】

登壇者の顔ぶれを見れば分かるように、かつては家電の世界においてもPCやその関連技術は花形だったが、そのトレンドもいまは昔CESそのものの出展社や展示内容も変質しつつある

事前に予想はしていたものの、今回の基調講演はゲーム以外でPCの要素がほぼなくなり「Intelと言えばPC」というイメージを払拭(ふっしょく)しようとしているようだ。2015年の基調講演に引き続き、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を中心として、同社のテクノロジーとさまざまな分野を結び付けた新たな協業や製品例が続々と登場した

●超小型コンピュータのCurieでスポーツが変わる

2015年の基調講演では、洋服のボタン程度と非常に小さなウェアラブル機器用モジュール「Curie(キュリー)」が発表され、これを搭載するスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスに焦点が当たっていた

Curieは省電力の32ビットプロセッサ「Quark SE SoC」をベースにしたx86によるプログラミングに対応し本体に384KBフラッシュメモリ、80KBのSRAM、DSPセンサーハブ、Bluetooth LEの通信機能、6軸センサー、バッテリー充電回路などを備えた超小型の組み込み用ボードだ。今回の基調講演では、10ドル以下の価格で今四半期中に出荷されることが明らかになった

その採用例として注目したいのがスポーツ分野だ。Intelは米大手スポーツ専門テレビ局のESPNとのコラボレーションを発表し、Curieによる新しい試みを行う。冬季エクストリームスポーツの祭典「X Games Aspen 2016」において、男子スノーボード競技のスロープスタイルとビックエアにCurieを組み込み、空中での回転、ジャンプの高さ、距離、速度、着地時の力のかかり方など、演技データをリアルタイムに提供するというのだ

これにより、アスリートに詳細な分析結果を提供し、競技の解説者に新たな指標を与え、スタンドの観戦者や視聴者には新たな観戦体験をもたらすという

基調講演のステージ上には、パフォーマンス用のセットも用意された。ここでCurieを組み込んだBMXバイクがパフォーマンスを行うと、ジャンプの高さや長さ、スピード、加速度などがリアルタイムで計測され、スクリーン上にリアルタイムで映し出される。これにより、数値でパフォーマンスの難度が直ちに把握できるというわけだ

壇上ではRed Bull Media Houseとのパートナーシップも発表。Curieを装着したアスリートがパフォーマンスを行うと、同様に各計測値がスクリーン上にリアルタイムで表示された

また、シューズメーカーのNew Balanceとウェアラブル技術の開発で協業を発表。IntelのRealSenseを用いて制作した3Dプリントによるカスタムメイドのミッドソールを備えたランニングシューズについて紹介した。また、同社は2016年の年末商戦(ホリデーシーズン)での発売に向けてスポーツ向けスマートウォッチを開発する

同様に協業しているOakleyの例では、音声で操作可能なリアルタイムのコーチング機能を備えたスマートアイウェア「Radar Pace」をプレビューしたこのアイウェアをすることで、トレーニング中にフィードバックや分析結果が得られ、パフォーマンス改善に貢献するという

今後はこうしたCurie組み込みの対象がさらに拡大し、Intelとのコラボモデルが多数現れると考えられる

●センサー技術をファッションに展開

センサーとデバイスを活用した応用製品はスポーツ分野にとどまらない。

米ファッションブランドのChromatは、Curieを組み込んだスポーツブラやドレスを披露。このスポーツブラは体温や発汗をリアルタイムに検知し、通風口を開閉して体温調整を助けるというものだドレスのほうは着用者の状態を検知することで、背中に装着された翼のようなカーボンフレームがさまざまな形状に自動で変形する

●産業分野をアシストする「Smart Helmet」

モバイル向けAR(拡張現実)アプリを手掛けるDAQRIの「Smart Helmet(スマートヘルメット)」は、深度センサーの搭載により周囲の状況を把握し、装着者の視界に適切な画像を重ね合わせることで指示を出せる仕組みが搭載されている。例えば作業現場などで、移動方向や作業手順を表示させ、間違いなく作業を完遂できるよう指示するといったことが可能だ。

スマートヘルメットのディスプレイはいわゆる透過型のHUD(Head Up Display)のように機能し、追加の情報を付加することで装着者を手助けするデバイスと言える。ちょうどMicrosoftの「HoloLens」を想像してもらえばいいだろう。

このスマートヘルメットも含め、スマートアイグラスと呼ばれるGoogle Glassのような装着型のデバイスは、どちらかと言えば産業従事者などB2B(Business to Business)分野での利用が進んでいる

●グラミー賞にも「インテル入ってる」となるか

音楽業界とのつながりについては、グラミー賞を主催するThe Recording Academyとの協業に関する複数年のパートナーシップを発表した。グラミーウィーク期間中に開始される公式プログラム「Next Generation of GRAMMY Moments」において、Intelのテクノロジーを生かしたユニークな音楽体験をレディー・ガガ氏(グラミー賞を6回受賞)と提供するという

基調講演には、同じくグラミー賞の受賞経験があるミュージシャンのA.R.ラフマーン氏が登場。同氏が手足に装着した、加速度センサーや通信機能を備えたセンサーデバイスは入力装置として機能し、その手足の動きで空間にあたかも楽器が存在するかのように演奏が可能となっている国際大会まで開催されるほど市民権を得ている「エアギター」も、このセンサーデバイスを装着すれば演奏が可能だ

今回のデモは音楽がテーマだったが、CES展示会場のIntelブースでは手の動きを3Dセンサーが感知して、画面のキャンバスに絵を描いたり、動きに合わせて画面の内容が変化したりと、一種のパフォーマンスを可能にする仕組みが複数設置されている。周囲には来場者による人だかりが常にできており、ステージやストリートのパフォーマンスでの活用が期待される分野だ。

衝突回避機能を備えて進化したドローン

センサー系デバイス以外では、2015年も何種類かのモデルが登場したドローンの新製品が紹介された。2015年に紹介されたドローンは2種類で、1つはIntelがコンテストで募集して優秀作品となった自撮りの空撮ドローン、もう1つがRealSenseカメラを搭載して障害物を自動で避けることが可能なドローンだった

2016年は後者の改良版にあたるYuneecの「Typhoon H」が紹介され、実際に基調講演会場に設置されたステージで実演デモが行われた。

Typhoon Hは障害物を避けるだけでなく、対象を自動追跡して内蔵の4Kカメラで撮影し、さらに倒木など障害物の移動を検知して飛行コースを変更して飛行を続ける機能が追加されているあまり変化がないようにも思えるが、機能的には年々進化しているということだ。Typhoon Hは2016年上半期に販売される

クルザニッチ氏は解説の途中で度々「全てはリアルなデモだ」ということを強調した。デモのために特別にチューニングされたわけではない、リアルの製品でうたっている機能がそのまま利用できることをアピールしているわけだ

2017年に同氏がCESのステージに登壇することになれば、やはり機能強化してさらに新しいことが可能になったドローンを紹介してくれることだろう。

●今後の応用に期待したい「Segway Robot」

ドローンと並んでロボットの分野も興味深い。今回、クルザニッチ氏がステージに登場する際、小型のSegway(セグウェイ)に乗って登場するパフォーマンスを行っていたが、これは実は自律行動が可能なロボットでもあり、本体中央部のモニターを回転させて機能をオンにすると、周囲の様子を把握して自分で動くロボットとなる

これは、Intel、Segway、Xiaomiの共同プロジェクトで誕生した「Segway Robot」だ顔にあたるモニターの上部に設置されたRealSenseカメラを使って、周囲の障害物や人物を把握して自動行動が可能なロボットとして機能する

もともとのセグウェイはジャイロスコープを搭載し、本体の傾きに応じて搭乗者が操縦可能な移動装置として有名だが開発元のSegwayは2015年初頭に中国のNinebotに買収されている。このNinebotはスマートフォンで有名なXiaomiに多額の出資を受けた企業であり、今回の3社プロジェクトが成立したというわけだ

壇上のデモでは、障害物を避けて周囲を徘徊(はいかい)したり、特定の人物を追跡したりあるいは簡単な受け答えを音声で行ったりと、(機能としてはすごいが)シンプルな動作が中心だったアプリケーション開発用キットが用意されており、作り込み次第ではより高度な行動をSegway Robotで実行できるだろう

人を1人運搬できるほどのパワーに加え、AtomプロセッサとRealSense ZR300カメラの性能を備えたロボットであり、今後さらにプロセッサのパフォーマンス強化が加われば、お手伝いロボットや遊び相手として十分な機能を発揮するしれない。このSegway Robotは2016年後半に一般提供と開発者キット提供が行われるという。非常に楽しみな試みだ。

●2015年からの“着実な進化”をアピール

今回はTwitchを使ったゲーム関連の話題を除けば、ほぼPCの話題が出ずIoTを中心とした話題に終始したIntelの基調講演IntelにPC的なものを期待するユーザーとしては残念だが、CES全体のトレンドがPCからスマートフォン、タブレット、そしてより目的に特化したデバイスという形でシフトしつつある現状を顧みれば、Intelもそれに合わせて変化しつつあることを象徴しているのかもしれない

2015年と似たような構成となっていた内容についても、その差分をアピールして「着実に進化していること」を示しており、これがコンセプトデモではなく、あくまで「現実にすぐ応用可能なもの、既に実用化したもの」ということを見せたいのだろう。そうしたメッセージを強く感じさせる基調講演だった。 [鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

参考 ITmedia PCUSER 2016.01.10

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