アジアインフラ投資銀行の行方

中国の主導により、急ピッチで設立準備が進められているアジアインフラ投資銀行(AIIB)の行方が注目されている。中国の狙いはどのようなものか。今後の国際政治に及ぼす影響をどう考えるべきなのか。これまでのゲストの発言を踏まえて、キャスター二人が語り合った。

◆情報収集に失敗した日本
「(自民党内では、日本がAIIB創設メンバーになる期限だった)三月時点で参加を見送ったのはやむをえないという意見が大半だ。バスに乗り遅れるなという議論ではなく、冷静に対応することが必要だ」=秋葉賢也自民党外交部会長(四月二十四日)

近藤 今後も経済成長が期待されているアジア地域で、各国のインフラ整備を進めるとして、中国の主導で設立準備が進められているのがAIIBです。創設メンバーには英仏独伊といった欧州の主要国を含めて、五七もの国が参加することが決まり、日米が取り残されるような格好になっています。五月半ばの現時点では、国内でも参加の是非をめぐる議論が熱を帯びています。

玉井 「英仏独伊に遅れをとってはならない」と日本があせる必要はありません日本にとって何が国益かを冷静に判断すれば良い。ただ、日本政府が当初、AIIBをめぐる欧州各国の動きについて、正確な情報を収集できていなかったことは大きな反省材料です。首相官邸内では、「財務省が英国をはじめとする各国の動きを全く官邸に上げてこなかった」と財務省不信の声が強まっている。思いこみにとらわれて、官僚が自分たちの「こうあるべきだ」というシナリオに沿った情報しか集めていなかったとすれば、世界情勢を読み間違って戦争に突き進んだ、戦前の軍部や官僚と同じ過ちを犯したと言われても仕方ありません

近藤 客観的にみれば、AIIBのような組織を新たに設立しようという機運が盛り上がってきたことには、それなりの背景がありました。今後のアジアでは膨大なインフラ資金が必要になってきます。アジア開発銀行(ADB)とは別に新たな国際金融機関が誕生することは、インフラ整備を進めたいアジアの新興国にとって歓迎すべきことですから

玉井 ただ、アジアのインフラビジネスを、減速しつつある中国経済のテコ入れに利用しようという中国の狙いは明白です中国にとっては、生産過剰になった資材を国外のインフラビジネスに活用していくことができれば都合がいいわけです

近藤 ちなみに、ADBの場合、出資比率は日本の一五・七%、米国の一五・六%に対し、中国はわずか六・五%で、発言権が乏しい。自らが主導するAIIBであれば、自らの影響力を十分に発揮することができる。さらに中長期的にいえば、中国には、人民元を広く世界に流通させていきたいという考えがあるのだと思います国際通貨としては、今のところドルとユーロがメインになっていますが、AIIBの進展にあわせて、将来的に「通貨覇権」を狙う意図もあるのではないでしょうか

◆懸念される組織運営
国際機関を設立するのであれば、長いロードマップで協議や調整をするが、(AIIBは)中国主導(のペース)になっている」=拓殖大学の渡辺利夫総長(四月二十四日)
「(参加した場合)多額の出資金に見合うだけのメリットがあるのか慎重に検討すべきだ」=自民党の平沢勝栄衆院議員(四月十三日)

玉井 しかし、AIIBの運営には懸念される点も多数ありますね。

近藤 国際通貨基金(IMF)やADBなど米国主導のこれまでの組織は、民主的ではない国への支援を制限してきましたが、中国の考え方は違うかもしれません。加えて、審査の甘さのために融資が焦げ付き、出資国が打撃を受けるような可能性もある。組織運営について不透明なところがあまりに多い

「重要なのはAIIBをより透明な銀行にすることだ。中国をより建設的な存在にしていくために、日本も役割を果たすべきではないか」=田中均元外務審議官(五月一日)

玉井 AIIBに対しては「外」から関与する方法もあれば、田中氏が主張するように、参加した上で「中」から透明性を高めるよう働きかけていく方法もあるでしょう。中国にはこのような国際機関を運営していく自信がなく、本音ではノウハウをもつ日本にぜひ入ってもらいたいのではないか、といった見方もあります。しかし、仮に日本が参加した場合、財政負担は最大約三〇億ドル(約三六〇〇億円)にも及ぶという政府の試算もありますし、ビジネス面でもそれほどの効果があるか疑問視する声がある。参加した場合のメリットとデメリットを十分に考え、仮にメリットが大きいとなった場合にどうするか。そのようにして国益を守る観点から対応の仕方を考えていくのが筋ではないでしょうか

◆欠かせない日米連携
「(アジアのインフラ整備には)ADBなど今までの枠組みを優先した方がいい」=公明党の上田勇政調会長代理(四月十三日)

近藤 いずれにせよAIIBがどのような組織になるか、まだハッキリしていません。参加しないデメリットがすぐに生じるわけではないので、日本としては価値観を共有する米国と足並みをそろえて対応していくことが重要でしょうね。同時に、日米が主導するADBでも、途上国のニーズにきめ細かく対応できるような改革を進めていくことが肝要です

玉井 米中の関係も「緊張」一色ではありません。米政府が英国のAIIB参加を止められなかったことは、米国の経済外交パワーの低下を示すものであり、米中が今度どこかで折り合う可能性がないわけではない。いつの間にか日本だけが外されていた、ということは絶対あってはなりません。あせってAIIBに参加する必要はありませんが、「入らない」と決めつけるのではなく、例えば、「米国を説得して日米で一緒に入る」、あるいは「米国の理解を得た上で日本だけ入る」といった複数のカードをもって対応していく戦略が必要です

近藤 自らインフラ整備の枠組みを作ってきた米国が、その影響力を減らしていくような組織に冷淡になるのは当然です。しかし、米国としても「中国を封じ込めたい」と考えてはいても、事を構えるようなことは避けたいはずですAIIBに対しても柔軟な姿勢に転ずる可能性はあると思います

参考 中央公論2015.07.06

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