ひそかに悩んでいる「ちょっと尿漏れ」

プライドがズタズタに

 「2年前に脳出血をやってから、急に漏れるようになったんです。麻痺などの症状はリハビリで改善できたのですが、頻尿をコントロールできなくなり、『トイレに行きたいな』と思った瞬間にはもう漏れ出ているオムツをつけざるをえなくなり、家族からもバカにされているようで情けなく、プライドがズタズタになりました

こう語るのは、河北武典さん(仮名、64歳)。元々企業の役員を務めていただけあって気位も高く、尿漏れという不測の事態に直面した際の精神的なダメージは大きかったという

男性は女性に比べて尿失禁の患者は少ない。だが、高齢化とともに確実にその数は増える女性の尿失禁ほど一般的でないので、初めて漏れたときには状況が理解できず、人に相談することもなく、ひとり悩みを抱え込む男性も多いのだ

尿漏れには様々な原因とタイプがある。河北さんが患っているのは切迫性尿失禁最も多いタイプの尿漏れである

突然尿意をもよおすことが特徴で、トイレに行く前に漏れ出てしまう。例えば冷水で手を洗っているだけで、急に尿意を覚えて漏れてしまうという具合だどちらかというと女性に多いが、男性でも高齢になればなるほど増える症状である。尿失禁に詳しい石井クリニックの石井泰憲院長が語る。

切迫性尿失禁には過活動膀胱と、神経因性膀胱の二つがあります。

過活動膀胱は尿意知覚が過敏になり、膀胱の伸びも悪くなって、尿をためることができなくなるものです

一方、神経因性膀胱は神経損傷、脳卒中や脳出血、認知症など脳の病気で倒れた人に見られます膀胱が一杯になったら尿意の刺激が脊髄を通して脳に伝わりますが、そのとき『今は尿をしてはいけない』と排尿抑制指示をするのが大脳皮質。その機能がうまく働かなくなると、用を足そうと思っても間に合わなくなって漏れてしまうのです

冒頭の河北さんは、後者の神経因性膀胱だったわけだ。原因は脳の障害にあるので、対処が難しいが、リハビリを続け、脳出血の後遺症が薄れるにつれて、尿漏れの症状にも改善が見られた

「最初は一人で悩んでいましたが、病院に行って原因が突き止められたら、あきらめもつき、外出する時には高齢者用のオムツをつけることに抵抗がなくなりました」(河北さん)

過活動膀胱は前立腺が大きくなっていく過程で起こる場合が多い前立腺が大きくなれば尿道は狭くなるので尿漏れにはなりにくそうなものだが、肥大がそれほど進んでいない場合だと逆に膀胱を刺激して、過活動になりやすい

切迫性尿失禁を抑えるにはまずは泌尿器科を受診することだが、家庭でできることとしては膀胱を刺激しない食事を心がけるのも重要だ

「例えば柑橘類は膀胱を刺激するので控えたほうがいい。飲み物は、コーヒーや緑茶などカフェインが入ったものは避けましょう」(前出の石井氏)

夜漏れを防ぐためには夕方から摂る水分を減らすといい。また夕方になると、足を高く上げるようにするといい。椅子に座ったまま足を机に乗せた状態にすると、リンパの流れが戻ってくるので、起きているうちに尿が出やすくなり、夜間の尿意が少なくなるのだ

尿漏れ防止の体操

 咳やくしゃみをしたときに、ちょろっと漏れてしまうこともよくあるこれは腹圧性尿失禁と呼ばれるもの尿道が短い女性に多く、男性には少ないが、前立腺の手術後などに一時的に起こることが多い

男性の場合は排尿後、陰茎をパンツにしまった後にタラッと漏れてしまう「排尿後尿滴下」がある。「出し切った」はずなのに、思わぬちょい漏れがあるというパターンだこの症状は、30代で4人に1人、年齢が上がればさらに多くの男性が経験する

排尿後に尿道に残っている尿は本来は尿道の周りの筋肉に絞り出されて、外に出るか、膀胱に戻りますこれをミルクバックと呼ぶのですが、尿道周囲の筋力が弱いとミルクバックが起こらず、尿道に尿が残ってしまい、排尿後陰茎が下向きになったとき、タラッとたれてしまうのです」(前出の石井氏)

このような尿失禁を改善させるためには、骨盤底筋体操が効果的だ。永弘クリニックの楠山弘之院長が解説する。

「膀胱を支える筋肉の力を取り戻すことで、症状は改善します。具体的には、肛門をぐっと締めるような感覚で、おならを我慢する筋肉、おしっこを途中で止める筋肉を意識しながら5秒間キープしますこの5秒間引き締め10回を1セットにして、1日に5セットほどくり返してください。そうするとだいたい70%くらいの人で症状の改善が見られます

実際におしっこをしているときに、少し止めてみて、どのあたりの筋肉が働いているのか意識してみるのもいいでしょう。この体操は症状の改善にも予防にも役立ちます」

50を過ぎて排尿後の尿漏れでズボンを汚すことが多くなった足立純一さん(仮名、58歳)は、「骨盤底筋を意識するようになって、明らかに尿漏れの回数が減った」という

「以前は薄い色のズボンにシミを作って、恥ずかしい思いをすることがあったのですが、最近ではそういうこともなくなりました」

他に男性に多い尿漏れとして、溢流性尿失禁もある。これは主に、前立腺肥大症が進み、尿が排出できず、膀胱にパンパンにたまった尿が溢れて漏れてしまう症状改善のためには肥大症を治療するしかない

このように一言で尿漏れといっても、原因や対処法は様々だ男の沽券にこだわって、一人で悩むよりも、診察を受けて正しい治療や体操をすることが、解決への近道であることは間違いない

「週刊現代」2016年4月23日号より

現代ビジネス2016.04.24

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