「斬首作戦」の実態とは?

4月末まで約2カ月間にわたる米韓合同軍事演習は、金正恩氏の核ミサイル挑発に対抗、史上最強規模で展開中だが、中でも注目は北朝鮮首脳をターゲットとする「斬首計画」だ在韓米軍はイラク戦やアフガニスタン攻撃に投入された「敵の要人を暗殺する」特殊部隊の韓国上陸をあえて公表、北朝鮮に心理的な圧力もかけている上陸作戦、先制攻撃、極秘潜入訓練と金正恩氏を包囲する作戦演習は実戦さながら。対する金正恩氏は「第5回目の核実験」を示唆し、双方の緊張はエスカレートの一途で、情勢は危険水域に入っているようにみえる。(久保田るり子)

■「斬首作戦」とは?

演習は北朝鮮の核兵器、ミサイル施設に対し先制攻撃を行う訓練と米韓の特殊部隊が金正恩氏を狙う訓練が平行して行われる計画とされ、後者が「斬首作戦」と呼ばれる

この作戦は半島有事の際の最新の米韓作戦「作戦計画5015」の一部だ。韓国メディアが最初に報じたのは昨夏。このとき米軍は韓国報道に神経質に反応し韓国軍に抗議した。その後、韓国軍内では情報漏洩の調査が行われた-とのいわく付きの作戦だ。

 韓国は自主防衛を主張する盧武鉉政権下で、米軍にあった戦時作戦統制権の韓国移管を決めたしかしその後、北朝鮮の核ミサイル戦略の進展が深刻となり、朴槿恵政権は2014年10月の国防相会談で統制権移管を無期延期とした。「作戦計画5015」とは、従来は統制権の韓国移管を前提に米韓で検討されてきたものだが、無期延期で内容が改めて見直され、韓国の被害を最小限にするため北朝鮮首脳部を早期に攻撃する作戦が加わった。この部分が「斬首作戦」と呼ばれている。

金正恩氏をはじめ政権中枢を有事発生の早期で攻撃することで北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル、生物化学兵器を“無力化”する-との作戦が「首脳部の斬首」なのだ

韓国紙によると、今回の米韓合同軍事演習で「斬首作戦」ために参加しているのは米第1空輸特戦団、米軍第75レンジャー連隊の特殊戦兵士や米海兵隊、米海軍特殊部隊「ネービーシールズ」など。18日まで行われている米韓の海兵隊による上陸作戦は「双竜訓練」といい、ヘリ空母といわれる4万トン級の強襲揚陸艦2隻が米韓合同軍事演習では初参加で行われている。またこの上陸作戦は北朝鮮の核・ミサイル基地が目標の訓練だ

■米韓のターゲットは平壌の主席宮、主要ミサイル基地

米軍は3月の米韓合同軍事演習に先立ち2月中旬から有事の米軍増派・配備訓練を開始、戦略部隊を続々と韓国入りさせた。1月6日の核実験、2月7日の長距離弾道ミサイル発射を受けての措置だ。特に北朝鮮に圧力をかけたのが、米ステルス戦闘機F22、2機を沖縄・嘉手納基地から韓国に配備したことだ。F22は日本の嘉手納に配備されているが、韓国への投入は2010年7月、韓国哨戒艦「天安」撃沈事件後の配備以来となる

F22は核兵器搭載可能の最新鋭機韓国・在韓米軍烏山空軍基地から北朝鮮・平壌までマッハ1・5で7分。圧倒的な戦闘能力とレーダーには捕捉されないステルス性を誇り、北朝鮮の主要基地、舞水端や東倉里基地まで15分以内で到達、核攻撃が可能だ。米軍はF22の韓国派遣について「米韓の決意の表れ」(米第7空軍オショーネシィ司令官)と述べ、韓国配備の期限を切らず、「金正恩氏への警告」との強烈なメッセージを示した

■疲弊する北朝鮮兵士たち

北朝鮮軍は例年、米韓合同軍事演習期間中は準軍事体制に入る。米韓が演習を装った軍事攻撃を仕掛ける可能性からこれに対抗する体制を敷くためで、「軍事演習期間中の北朝鮮は軍人だけでなく住民も坑道での生活を強いられ、非常に負担が大きい」(韓国情報筋)

北朝鮮は2月下旬から全国民に向けた綱紀粛正を強化している。朝鮮労働党政治局会議は「70日戦闘」を採択。5月の党大会に向けた生産・建設を呼びかけ、「米国とその追従勢力がわが社会主義を圧殺しようとあがいている」と敵意をあおった。次いで党機関紙「労働新聞」は若者に「思想武装」を呼びかけ「侵略者らの野蛮性や本性を一瞬も忘れることなく思想戦の熱を高めよ」と引き締めにかかっている

北朝鮮は弾道ミサイルの大気圏再突入「模擬実験成功」発表や「早期に核弾頭の爆発実験と核弾頭装着が可能な弾道ミサイル発射実験を断行」との表明で攻勢を強めているが、この強硬姿勢は口先宣伝と片付けられない。「斬首」か「挑発」か。金正恩氏の実績作りの必要性からも党大会前の核実験・ミサイル発射のいずれかの可能性が高まっている。(久保田るり子)

産経新聞  2016.03.19

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